「生前対策」とはどのようなことですか?「終活」とは何が違うのですか?

1.高齢化率の上昇と家族形態の変化

誰もが知っているように我が国は,世界トップクラスの平均寿命を誇る超高齢社会を迎えています。男性は81.49歳,女性が87.60歳(2022年12月23日発表 厚生労働省),日本全体の平均寿命は84.55歳になりました。WHOのデータでは世界トップで,2位のスイス83.4歳とは約1歳の差があります。世界全体の平均寿命は,男性が70.8歳,女性が75.9歳。日本は10歳以上世界全体の平均寿命を上回っており,長寿国といわれているのも納得です。

日本では1995年から高齢者割合(65歳以上の高齢者の割合が人口に占める割合)が14%を超え,「高齢社会」へと突入しました。そして,2020年には28.6%となり「超高齢社会」に至りました。高齢化率が21%を超えると「超高齢社会」といわれるわけですが,日本では2010年に23%を超え,世界最速で「超高齢社会」に突入したわけです。

家族形態はどうかというと,子供と同居する高齢者が減少し,一人暮らしや高齢者の夫婦のみの世帯が増加しました。2015年(平成27年)における子どもと同居する高齢者の割合は25年前の59.7%から39.0%に20%以上も減少しました。

同年における高齢者の一人暮らし単独世帯と夫婦のみの世帯を合わせた割合は56.9%に達しています。

2.高齢者の健康

日常生活に制限のない期間を「健康寿命」という見方で表します。2019年(令和元年)における健康寿命は,男性72.68歳,女性75.38歳なっています。平均寿命から男性約9年,女性約12年の差があることを覚えておきましょう。

高齢者の中でも75歳以上になると,介護保険制度における「要介護」の認定を受ける人の割合がずっと高くなり,65歳から74歳の高齢者で3.0%だったものが,一気に23.5%に跳ね上がります。

認知症という観点からみた場合,2012年(平成24年)の認知症高齢者数は462万人であり,およそ7人に1人でした。2025年(令和7年)には,約5人に1人になる約700万人との推計もあります。

3.「生前整理」の重要性

このような環境変化のなかで,「相続」や「財産・資産管理」に対する高齢者の価値観も変化してきています。

例えば,わたしたちの身の周りでも,次のようなお話しを聞くようになりました。

「老後の生活スタイルや家族に残す財産の処分方法は自分で決めたい」

「老後の住まいや生活する場所は,できるだけ自分が元気なうちに方針を決めたい」

「残された家族や親族にはできるだけ迷惑をかけたくない」

これらを法律的に解釈すると,次の3つの言葉に置き換えることができます。

①自己決定権の実現(ライフプラン):健康なあいだは,自分たち(またはご自身)で財産・資産を管理したい。

②紛争にさせない:意思能力がしっかりしているうちは,家族や親族に口を出させない,干渉させない。

③権利は自分で守る:意思能力も体力も元気なうちは,故意の第三者からの詐欺や消費者被害に遭うことはない(という自信がある)。

しかし,人間は年を重ねるに連れ,自立した生活へ支障が出てくることは避けられません。振り込め詐欺の被害や,高齢者の消費者被害なども社会問題化しています。認知症や日常生活に大きな支障が出る前に,徐々に変化する健康状態(急激に変化することもあります)にも対応して,専門家とともに,後見制度利用開始前から行う高齢者の「生前対策」が重要です。

4.「終活」と「生前対策」の関係

では,「生前対策」とはどのようなことをいうのでしょうか?

「終活」と比較しながら説明しましょう。

終活」とは、人生の終わりのための活動の略で、自分の望む最後を迎えるために様々な準備や人生の総括を行うことです「終活」には、身の回りや財産の整理、相続の手続き、葬儀や墓の準備、老後の医療・介護に関する方針決定などが含まれます。「終活」をすることで、自分らしく生きることや、遺された家族の負担やトラブルを減らすことができます。

一方,生前対策」とは、生きている間に自身の資産や財産を整理し、見直すことです。生前対策をすると、自身の資産・財産を把握することができ、不要な物、相続・引き継ぎが必要な物が表面化するでしょう。そこで、生きている間にやるべき問題点を解決して、自身の死後の希望も明確に示しておけば、残された家族や親族の負担軽減にもつながります。また、自身の人生を改めて見つめ直す機会が生まれるので、残りの人生計画が立てやすくなる点がメリットです。「生前対策」は、単なる断捨離ではなく、残された家族や親族が資産・遺品の相続・引き継ぎや処分をスムーズに行うために大切な終活の一つといえるでしょう。

おひとり様にとっては,第三者に迷惑をかけないで往生することにも繋がります。

終活」は人生全体を見渡して行う活動ですが、「生前対策」はその一部であり、主に資産や財産を整理することに重点が置かれます。契約や手続きなどが重要になってまいりますので,貴重な資産や財産をトラブルから守りために信頼できる地域の専門職と連携して対応することが大切になります。

5.「生前対策」全体像について

これまで「生前対策」について,横断的・網羅的に取り上げている書籍や解説書は多くありませんでした。あっても,専門家向けの法律書などであり,一般読者向けのものは少ないように思います。

このブログでは,シリーズで「生前対策」全般について,わかり易く身近なものとして取り上げていきたいと思います。予定している具体的な内容は,以下のものです。(順不同)

〇見守り・日常的な法務の相談:今後の生活設計・資産管理などを法律・行政手続き面などからアドバイスする。

〇財産管理・事務管理契約:代理人に財産管理をしてもらう。任意後見契約とセット締結される場合が典型例。

〇法定後見制度:精神上の障害(認知症など)により,判断能力が著しく不十分な方を保護・支援するための国の制度。

〇任意後見契約:自己の生活,療養看護に関する法律行為および財産管理をしてもらうこと。

〇遺言書:自分の財産を死後に,最も有効・有意義に活用してもらうために行う遺言者の意思表示。

〇家族信託:委託者と受託者との契約により設定される信託。委託者の親族が受託者となる信託契約。

〇死後事務委任契約:委任者が受任者に対し,自己の死後の事務(葬儀・供養その他の事務処理)について,生前に委任する契約。

〇身元保証契約:身寄りのない「おひとり様」の委任者が受任者に対し,入院時や施設入居時の身元保証をしてもらう契約。

このブログをお読みになった方が,「生前対策」についての理解を深められ,元気にそして安心して「人生100年時代」を送られるよう活用していただけますと幸いでございます。

行政書士ほそだ宮の森事務所