「認知症」になると生前対策ができなくなるってどうして?

1.「認知症」と意思能力の関係

筆者は「認知症サポーター」をやっております。その関係資料をみると,「平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%という割合だったものが2025年には5人に1人、20%が認知症になるという推計もあります。」となっており,認知症は今やたいへん身近な問題です。

認知症の要因は加齢にあることから、超高齢社会で暮らす私たち誰もが認知症になりうる、他人ごとではないということです。

出典: 平成29年 高齢社会白書外部サイト 第1章 第2節 3 高齢者の健康・福祉より

脳は,人間の活動をコントロールしているいわば司令塔です。認知症とは,いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったりして,脳の司令塔の働きに不都合が生じ,さまざまな障害が起こり,生活するうえで支障がおよそ6カ月以上継続している状態を指します。

認知症の中核症状には,記憶障害,見当識障害,理解・判断力の障害,実行機能障害などがあり,「判断能力」の低下を招きます。そうなると,日常生活で常に行っている「その都度決める」ことが出来なくなってしまいます。たとえば,家事,買い物,趣味や友人との付き合い,病気の療養や健康管理,銀行や役所の手続き…,何を食べ,どんな服を着て,どこへ出かけて,何をするかなど。

認知症や知的障害,精神障害など判断能力の低下につながる病気や障害はいくつかあります。

法律上,有効な効果を発生させる法律行為には,当事者が「意思能力」を有する必要があります。この法律学でいう「意思能力」が「判断能力」と呼ばれています。同義語に「事理弁識能力」というものもありますが,ほぼ同義と思っていいでしょう。

「意思能力」とは,「自分の行為の結果を判断することのできる精神的能力であって,正常な認識力と予期力とを含むもの」をいい,意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は無効となります。(民法3条の2)

高齢者の場合,判断能力が低下して意思能力が「疑われる」もしくは「ない」状態だと,契約行為や取引に相手方は応じてくれません金融機関の口座凍結もここに原因があります。視点を変えて,高齢者側の立場からは,悪意ある第三者やトラブルから高齢者本人の資産を保護してくれている,ということが言えるわけです。

年金が振り込まれる普通預金等の預け入れ又は払い戻し,介護契約の締結,変更及び解除等は,本人の判断能力が不十分であっても,事実上,家族が代行して済ませている実態があります。そして,法的効力の有無又は当否は別として,本人のために家族が事実上代行し,実際上,本人が保護されている場合は,法的紛争が特に生じることもなく済んでいることが少なくありません。

しかしながら,どうしても本人の意思表示や本人確認が必要な法律行為が多々あります。不動産の売却,定期預金の解約,遺産分割の協議,又は訴訟提起などは家族による事実上の代行ができません。これは「生前対策」も同じです。

2.認知症になると「生前対策」ができなくなる!

では,認知症になって判断能力が低下したときに,「生前対策」でどのようなことが出来なくなるのか具体的に一つずつ見ていきます。

(1)遺言書が作れなくなります。

 ●意思能力が認められないと遺言書を作成できません。(民法963条)

 ●公正証書遺言を作成する(ほそだ事務所推奨の方法)場合,公証人から口授の場面で意思能力があるかどうかをうかがう質疑応答がなされます。意思能力がないと判断されると遺言書が作成できません。

 ●遺言書がないと死後,親族同士で遺産相続争いがおこることがよくあります。

(2)生前贈与が出来なくなります。

 ●子供や孫に贈与を考えていたとしても,認知症だと行えません。

 ●贈与契約書の作成ができなくなり,贈与行為の証明もできません。

(3)不動産の管理・処分ができません。

 ●不動産を所有していたとしても,売却や賃貸の手続きができなくなります。

 ●老人ホームの資金作りを考えていても手続きが出来ずに「終活」に大きな支障が出ます。

(4)個別の委任契約を結べなくなります。

 ●財産管理のための見守りサポート,信託契約,任意後見契約を結べなくなります。

 ●亡くなった後の手続きを依頼する死後事務委任契約ができません。

(5)税金対策ができません。

 ●相続税の節税対策の方法が取れなくなります。(「生命保険に入れない」「賃貸物件建設ができない」等)

 

生前対策のタイミングは,高齢者の本人が元気なうちがベストです。しかし,往々にして,元気なときには必要に気付きません。もしくは,気付いていても手を下そうとしないものです。そして,体調や精神状態が変化し,衰えを感じ始めたときには,もう残された唯一のタイミングになっています。軽度認知障害(MCI)の段階です。この段階を過ぎて症状が重症化すると,生前対策は何もできません。残された方法は,成年後見制度を利用し,第三者の「後見人」を付けてもらい財産管理及び身上監護を生涯にわたって受けるしかありません。

認知症になると(重症化すると),生前対策ができなくなります。本人は認めにくい,認めたくないのが認知症です。そのため,気付かないうちに少しずつ進行していることもあります。そうならないうちに,今すぐ生前対策を始めましょう。