「任意後見契約」と「法定後見制度」との違いは,どのような点ですか?

前回,成年後見制度の種類には,「法定後見制度」と「任意後見契約」の2つあります。

振返りをすると,

〇「法定後見制度」は申立により,家庭裁判所が,その者を保護する者を選任する制度です。

〇「任意後見契約」は,認知症等が発症又は悪化して判断能力が不十分になる前に,信頼できる者を自ら選定して,必要な事務を委任するとともに代理権を与えておく「契約」です。

と,書きました。

そこでこの記事では,「任意後見契約」について,「法定後見制度」との違いに注目しながら,詳しくみていきます。

1.「任意後見契約」ってどういうもの?

「任意後見契約」とは,本人が,判断能力に問題がない段階において,委任者として,受任者との間において,精神上の障がいにより事理を弁識する能力が不十分な状況になった場合における本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務を委託し,事務について代理権を付与する委任契約です。

任意後見契約は,必ず公正証書によってなされなければなりません(「任意後見契約に関する法律」第3条。以下,「任意後見〇」と略す。)。

実際に判断能力が不十分になったときに,家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て,裁判所から選任されたときに,任意後見契約の効力が発効します。

2.特徴及び法定後見制度との相違点

任意後見契約の特徴について,法定後見制度と比較しながら,以下にみていきましょう。

①任意後見契約であれば,本人が財産管理を行う第三者(任意後見人)を選ぶことができる点に大きな特徴があります。法定後見制度の場合は,最終的に後見人等を選任するのは裁判所であり,必ずしも本人の希望通りの者が後見人等に選任されるとは限りません。(小職のお付き合いのある弁護士からは,ほぼご自身が選任されている,というお話しを聞きます。)

②任意後見では,法定後見制度と異なって,法律行為に対する取消権が認められていません。また,代理権は認められていますが,その範囲は各類型事案ごとに委任者との合意で決められます。

③任意後見契約は,さきほど触れたように,必ず公正証書によってなされなければなりません。公証人が関与することにより,本人の真意に基づいた適正な契約が締結されることが期待されています。

④次に,重要な相違点は,任意後見契約は,任意後見監督人が選任された時から効力が生じることになります。家庭裁判所は,本人の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ任意後見監督人の選任の審判をすることができません。任意後見監督人選任の申立ては,本人の同意を得て受任者が行う場合が多いと思われます。

3.任意後見契約の3つの形態

任意後見契約には,将来型,移行型,即効型の3つの形態があるとされています。

(1)将来型

将来型は,契約締結時には任意後見受任者において何らかの事務が発生することはなく,将来本人の判断能力が低下した時点で,任意後見受任者が任意後見監督人の監督の下に任意後見契約に基づき事務を開始する形態です。契約締結の後,実際に任意後見人の財産管理が開始するまでの間にかなりのタイムラグが存在することがあり,その間,本人と任意後見人との間の信頼関係をいかに維持するかが問題となります。

(2)移行型

移行型は,財産管理契約を締結して,任意後見契約発効前から受任者が見守りや財産管理を行い,本人の判断能力が低下した後に任意後見契約を発効させて任意後見人が財産管理を行うとするものです。移行型は,将来型の問題として指摘した委任者と受任者の信頼関係の維持の間隙を埋めるものとして有効なものとされています。

(3)即効型

即効型は,任意後見契約の締結後,直ちに任意後見契約を発効させるものです。この段階では,本人の判断能力が一定程度低下していることから,本人に同契約を締結する能力が備わっているか,本人が同契約の内容をきちんと理解できているか,ということが常に問題となり得,後日,同契約の有効性が争われる可能性がある。任意後見契約公正証書の作成の時点で,公証人が本人に意思能力がないと判断した場合には,公正証書の作成を拒絶し,法定後見の申し立てを勧めるのが一般的です。同じ趣旨から,本人及び受任者において,本人の意思能力の有無,程度に関する診断書を医師に作成してもらい準備しておくことも考えられます。

4.医療行為,死後事務,報酬について

本人が受任者に代理権を付与できるのは,自己の生活,療養看護及び財産管理に関する法律行為に関するものに限られます。

医療行為,特に終末期医療に関する意向や本人が死亡した後の葬儀や供養に関する事項については任意後見契約で定めることはできません。任意後見契約とは別に尊厳死宣言公正証書を作成したり,死後事務委任契約を締結しておくなどの対応を検討します。

ところで,任意後見監督人には報酬請求権が認められており,任意後見人にも報酬を認めている場合には,2人に報酬を支払うことになるので,見過ごすことのないよう注意しましょう。

by  行政書士ほそだ宮の森事務所 行政書士 細田 健一

(一般社団法人いきいきライフ協会札幌宮の森 代表理事)