「法定後見制度」という言葉をよく耳にしますが,どのようなものですか?

前回,認知症等の「症状が重症化すると,生前対策は何もできません。残された方法は,成年後見制度を利用し,第三者の「後見人」を付けてもらい財産管理及び身上監護を生涯にわたって受けるしかありません。」と書きました。

そこでこの記事では,元気なうちの「生前対策」を具体的に考えていく前に,最終的な手段である「成年後見制度」,その中でも「法定後見制度」について,詳しくみていきます。

1.「成年後見制度」の種類

成年後見制度は,認知症その他の精神上の障害により判断能力が不十分な人のために,その人が締結した契約等を取消したり,あるいはその人を代理して必要な契約および財産の管理をして,その保護を図る制度です。

例えば,認知症があるため売買契約の内容及びその結果を判断するだけの判断能力がない場合(意思無能力)には,その売買契約は無効になりますね。しかし,法律行為を行ったあとに,その行為時点で意思無能力であったことを証明することは簡単ではありません。また,前段で述べたように契約等の法律行為を代理したり,取消したりして保護することも必要です。ここに,意思無能力を証明することなく,判断能力が不十分な者の財産を管理する成年後見制度が必要とされる理由があります。

成年後見制度の種類には,2つあります。「法定後見制度」と「任意後見契約」です。「法定後見制度」は,申立により,家庭裁判所が,その者を保護する者を選任する制度です。

これに対し,「任意後見契約」は,認知症等が発症又は悪化して判断能力が不十分になる前に,信頼できる者を自ら選定して,必要な事務を委任するとともに代理権を与えておく「契約」です。

2.法定後見制度の特徴

法定後見制度には,判断能力が不十分な順に,「後見」,「保佐」および「補助」の3つの制度があります。「不十分」の程度によって区分されています。最も不十分な「後見」は「欠く常況」,「保佐」は「著しく不十分」,「補助」は「不十分」と区別されています。この稿では,「後見」を例にとって進めてまいります。

後見を開始するには,はじめに,本人や一定の親族など関係者からの申立てに基づき,法定の要件を満たした場合に家庭裁判所の審判により開始することとされています。後見人を選任するのは裁判所の判断であり,必ずしも本人の希望通りの者が後見人に選任されるとは限りません。審判が確定すると,後見開始の審判の登記がされます。登記後,成年後見人は,登記事項証明書を取り,この証明書を金融機関や介護サービス事業者等に対し提出・提示することにより,後見開始の事実及び成年後見人の地位にあることを示すことができます。

次に,成年後見人の主な役割りについてみてみます。

成年後見人は,本人に代わって,「生活,療養看護及び財産の管理に関する事務」を行う(民法858条)と規定されています。主な業務は,身上保護の面では,医療や介護に関する契約,契約後の履行の管理,施設への入居契約等です。財産管理の面では,財産目録を家庭裁判所に提出,収入や支出の記録・管理,納税等がある場合の手続き等です。

これらの事務を行うため,代理権,取消権,追認権及び財産管理権が与えられています。成年後見人は被後見人の財産や生活を守る立場にあります。本人にとって有益だとしても,人間関係を考慮したり,財産の運用等までは行うことができません。年に1回程度は家庭裁判所に求められ,財産状況や収支等の報告を行いますが,これを怠ると解任される可能性があります。

成年後見人には,専門家(弁護士・司法書士・行政書士等)が選任されるケースが70~80%と多く,家族がなるのは少ないです。専門家がなるメリットとしては,一つには,書類申請を代行してもらえることがあげられます。先ほど申し上げたとおり,成年後見人は家庭裁判所に定期的に財務状況を報告しなければなりませんので,この分野の業務に精通している方々には容易です。次いで,公平中立な立場の第三者が後見人になることで,将来的に遺産分割協議が円滑に進めることができます。親族が管理していると,使い込みなどを疑われることもあり,トラブルに繋がり易いです。

しかし,デメリットもあります。一つは,一度成年後見人が任命されると,正当な理由がない限り,辞めさせることはできません。他人ですので,性格が合わなかったり,意に沿わない判断をされたりしても,一生のお付き合いになると考えてよいでしょう。もう一つは,親族の負担が逆に増えてしまうケースもあります。その原因の一つが成年後見人の報酬です。専門家には成年後見業務の対価とあいて報酬が発生します。財産総額によって異なりますが,長年にわたって,年間40~60万円程度の報酬がかかります。10年後に他界した場合は,400~600万円を負担することになります。長寿の場合はもっと掛かります。

問題点も指摘されています。親族が後見人となっている場合で,被後見人である親の財産の私的流用が発覚するケースがあとを絶ちません。また,アパート経営をされていた被後見人のアパート管理には後見人はノータッチです。アパートの補修修繕等や利益を得るための売却等,資産運用に関しては成年後見人の仕事ではありません。

親族が成年後見人になる場合、下記のようなトラブルが起こりえます。

  • 成年後見人の財産の使い込み
  • 親族間でのトラブルの原因となる
  • 事務の負担が大きいため、成年後見人による職務怠慢が起きる

専門職の成年後見人による横領事件もありますが、最高裁判所事務総局家庭局実情調査の「後見人等による不正事例」の統計に記載のとおり、専門職以外の成年後見人による不正事例の件数が多いのが実情です。後見人等による不正事例は令和3年は169件でしたが,専門職は僅かに9件だった一方で,親族その他が160件でした。

3.成年後見制度の活用の前に!

成年後見制度の利用者を認知症患者数の割合でみてみると,4%程度となっております。つまり,「認知症=後見人を付ける」という事ではないのです。後見人をつけないで,平穏にお暮しになっている認知症患者の方も多くいらっしゃいます。

 ※:成年後見制度利用者数23.9万人(2021年)に対し,認知症患者推定数631万人(2020年)。

あくまで,認知症の方の身上保護や財産管理において,必要不可欠な状況が見受けられる場合に利用されているということです。後見制度は,運用面において様々な課題が出ており,見直しが検討されています。

もちろん,法定後見制度でなければ守れない高齢者の方がいらっしゃる事も紛れもない事実です。成年後見制度の活用の前に,キチンと専門家に相談してメリット・デメリットを確認したうえで活用するようにしましょう。

by  行政書士ほそだ宮の森事務所 行政書士 細田 健一

(一般社団法人いきいきライフ協会札幌宮の森 代表理事)