定年後に後悔しないためのその1:マインドセットを転換する

・この記事を書いた動機は、わたし自身が60歳定年を間近に控えた55歳のときに、それまで大過なく過ごすことができた会社員人生だったのに、何故か急に仕事に行き詰まりを感じ、会社人生に息苦しさを覚え始めました。
・それと同時に、定年後の人生の選択に大いに悩み、辛く苦しい時期を過ごしました。
・それから、同世代の友人や知り合いにそれとなく聞いて回ると、同じような悩みに苦しんだ経験を持つ人が意外に多いということが分かりました。
・同じビジネスパーソンの方々に、そのような思いをしてほしくないと考え、現在進行形ですが、実際の定年や転職、再雇用の経験を通じて得た私自身の知見や、経営学修士、メンタルケア心理士®、FPなどの知識を活かして、ニュートラルな視点からまとめてみました。
・会社のセミナーや人事部では教えてくれない、周りも話してくれないリアルな定年後に備えるための記事ですので、途中から有料となっております。
・この記事は、5362字あります。
・5本シリーズで書いていく予定です。

想定する読者

・50代、60代のビジネスパーソン一人ひとりが「幸せ」な定年後の人生を生きることは、社会全体を活性化し、地域を明るくして活力ある世の中にすることにつながります。
・人生の最重要期である50代、60代のビジネスパーソンで、定年後の人生をどのように生きるか悩んでいる方は多いです。また、会社のセミナーや一般のセミナーに出てはみたけど満足できない方、会社の人事部にも相談したくない方、家族や友人にも相談しにくい方も少なくありません。
・この記事をお読みになって、少しでも心が軽くなることを願っております。

その1:マインドセットを転換しよう!

・定年後の準備として最もはじめに取り組むべきこととして、サラリーパーソンとしてのマインドセットの問題をとりあげます。
・定年後まで会社や組織での出世や人事評価の不満を引きずる人が少なくありません。私も危うくその一人になりかけましたが、うまく断ち切ることができました。
・「人と比べる」、競争する」ことから意識的に“降りる”ことで、新しい人生に向き合うことができます。それを「マインドセットの転換」といいます。

1. 出世レースから降りるときが来た

・サラリーパーソンは多かれ少なかれ似たようなマインドセットを持っているように思われます。
・その代表的なものが、「出世」に関する自分への期待、他者への関心ではないでしょうか。これで、自分をすり減らしてしまう人もいます。
・サラリーパーソンは「出世」、その反対の「左遷」「降格」など生殺与奪の権は上司や会社に握られています。上司の機嫌を伺うのは身を守るためにほかなりません。
・入社以来、課長、部長という出世レースに残り、もし役員にでもなればサラリーパーソンとしてはほぼ勝者ということができます。出世レースに勝負がつくのは40~50歳前後です。
・役員になった同期の話しを聴きつつ、心の中では「同期のあいつより俺の方がずっと仕事ができたのに…」、「あいつは上司に恵まれただけ、それに引き換え俺の上司ときたら…」と叫んでいる。
・でも、そんなことを思っても仕方ありません。もう勝負はついてしまっているのです。50代になっていつまでもウジウジと恨み辛みを言い続けて、定年を迎えてしまうのは大きな損失です。
・出世するかしないかには、単に能力ばかりではなく運もあります。運も実力のうちです。
・しかし、出世しないからといって「人生の敗者」とはいえません。会社だけが人生ではないのですから。ましてや、定年後の人生は長いのです。
・自分の葬儀の場面で、最後に「幸せ」を手に入れればいいのです。
・ゲームオーバーのときがやがて来ると想像しやすいのも50代。社会的な成功や失敗にどれほどの意味があるのかと思えてきて、人を羨ましいと思う気持ちを捨てるきっかけになります。
・早く、出世レースや社内のギュウギュウ詰めの「競争」や「満員列車」から降りて、気持ちを切り替え、次の人生に向かって準備する方がはるかに幸せです。

2. “成仏”すると景色が変わる

・ある調査会社が人事評価制度について会社員に向けておこなった調査の結果から見えてくるのは、上司の顔色をうかがいながらその人なりに頑張ったとしても、必ずしも人事評価で評価されず、出世などに結びついていないという実態です。
・これでは真面目な人は虚しさに囚われたり、自己肯定感まで失ってしまうことになりかねませんね。定年が見えてきている50代は、もはや人事評価制度に期待してはいけません。
・自分でマインドセットを換えて、この消耗戦から早く降りることです。そして、新しい自分だけの「生き方」を作りだす方向に能力と気力体力を向けていくのです。
・早く「成仏」した方が幸せになれます。
・“成仏する”とはどういう意味なのか?…ひと言で言うと、“成仏”とは、いつまでも会社人生にこだわらないで新しい人生に向かう、ということ。
・人生の目的は会社で出世することではなく、「幸せになること」ですから、いつまでも会社での地位や立場に固執するのではなく、そういうものは早く捨て去るべきです。
・わたしは55歳で成仏しました(笑)。もう少し早くするべきだったと思います。次第に、出世した同僚、友人・知人をうらやむ気持ち、妬む感情が静まるようになりました。「人それぞれ、幸せならいいではないか」と思えるようになると、肩の重荷が降りたような良い気分になりました。

3.「対他競争」から「対自競争」へ

・精神科医・心理学者のアルフレッド・アドラーはそのアドラー心理学において、成功を求めて人と競争するのが「対他競争」、幸福を求めて前の自分より進化していくのを「対自競争」と言ってます。
・成功を求める意欲が人との競争心やライバル心を生み、人を成長させることは否定するものではありません。アドラーはこれを認める一方で、過去との自分との競争も重視しています。
・これは、過去の自分よりよくなろうとする向上心につながります。
・会社生活も終盤に入ったら、他者との比較や競争から降りて、自分自身の成長を求めるマインドセットに転換したいものですね。
・いつまでも会社での仕事や地位にこだわるのではなく、新しい「生き方」に向けて一歩を踏み出す覚悟をしたいものです。
・「降りた」という感覚は、確実に気持ちを楽にしてくれます。向上心は残しておいて構いませんが、無駄な競争心から解き放たれたときに、心から楽になれると思います。
・定年から自分の好きなことができる時期がスタートする、まさに「人生のリスタート」だと考えてはどうでしょうか。
・60歳、もしくは65歳で会社を辞めたあともまだ20年~25年ぐらいは人生は続くのですから、新たに仕事で頑張るのもよし、趣味を中心に思い切り楽しむもよし、楽しく過ごすことができます。
・過去に生きるのではなく、未来に生きることが何よりも大切です。
・退職後も「元〇〇会社の▲▲部長の□□です。」と、前の会社の肩書を使うのではなく、今の等身大の自分で堂々と生きていきたいものです。

4.「生きがい」を感じられる心の状態

・すでに「生きがい」を持っている人には必要のないことですが、持っていない人にとっては「生きがい」は大きな課題です。
・いままで会社や仕事一辺倒で過ごし、「生きがい」といえるものがないという人も少なくないと思いますが、その原因のひとつは長いサラリーパーソン時代のマインドセットのせいで、「生きがい」を感じられなくなっているからです。
・「生きがい」を感じられる心の状態に焦点をあてていきます。
・現役時代、サラリーパーソンは常に「効率」を求められてきました。仕事でも収益でもすべて効率的に実行するために計画を立ててきました。
・定年後に大切なのは効率的でなくても構わないので、より心の満足を得られ「幸せ」を感じられる生き方です。
・「生きがい」を感じられるためには、何と言っても心が楽しめなくてはいけません。
・心理学者のアドラーは、質的幸福を求めることが重要だと指摘しています。「どれだけ成果が上がった」「どれだけ儲かった」と、形や数字で見える成果が量的成功であり、サラリーパーソンは目的を立て、数字として明確に表されるそのゴールに到達することに目指してひたすら働いています。
・一方、「どれだけ楽しめたか」「どれだけ学べたか」と、心で得られる達成感が質的幸福です。定年後に向いているのは、この質的幸福です。もう効率や量的なゴールを目指すのではなく、日々の充実感や生きがい感を大切にするのです。
・質的幸福を求めることで、成功とは関係なく、生きていること自体が幸福と感じられるようになるのではないでしょうか。
・生きがいにも目的や目標を求める人がいますが、その心を解きほぐす必要があります。
・目的や結果を求めずに行為そのものに意味を感じる生き方もあります。行為の結果から何がもたらされるかなどは考えずに目の前のすべきことに没頭する。
・子供の頃に無我夢中でやったプラモデル作りやパズルを解くこと、取り組むことで充実の時が得られる。そのように、プロセスを生きるという姿勢も大切です。
・ 精神科医の神谷美恵子『神谷美恵子著作集1 生きがいについて』(みすず書房)の中で、「人間はべつに誰から頼まれてなくても、いわば自分の好きで、いろいろな目標を立てるが、ほんとうをいうと、その目標が到達されるかどうかは真の問題ではないのではないか。ただ、そういう生の構造のなかで歩いていることそのことが必要なのではないだろうか。その証拠には一つの目標が到達されてしまうと、無目的の空虚さを恐れるかのように、大急ぎで次の目標を立てる。結局、ひとは無限のかなたにある目標を追っているのだ。」と述べています。
・特に目標が見当たらないときは、何かに没頭することで生活に張りが出ます。自分の能力を最高度に使って何かに挑戦しているとき、集中力が高まり、時間を忘れ、そのことに深く没頭できます。
・自分の能力を十分に発揮していると生活を豊かにすることにつながります。
・金のための仕事から解放されたときのために、趣味人になる勉強をするのも楽しい。気になっていた勉強や活動を試してみる。若いころにやりたかったことでいまできそうなことに挑戦してみるのもいい。
・そうした楽しみに使える予算を定年前から、こつこつと貯めておきましょう。生活に困らない程度に資金確保をすることで、心豊かな生活への道が開けます。

5.主体性を回復するチャンスが来た!

・会社員のうちは、すべきことに日々追われているため、ほぼ自動的に暮らすことができます。
・定年退職して数十年ぶりに自由を手に入れるわけですが、その自由な時間をどう使ったらよいかがわからず、自由が重荷になってしまう人もいます。すべきことがない、通うべき場所がない。
・ここにも、サラリーパーソンのマインドセットの問題があります。
・社会が組織化され多くの人々が、サラリーパーソン化した現代、組織の原理によって動かされる部分が大きくなり、個人の主体性が奪われがちです。主体性を回復したいと思っても組織のなかではなかなか難しい。
・与えられた裁量の範囲内で、ささやかな主体性を発揮するように工夫する人もいるでしょう。
・将来、思い切り主体性を発揮して暮らせるように、今は我慢するときだと考える人もいるでしょう。
・家族のために職務上では主体性の発揮を断念し、私生活をもっと主体的に生きるようにしたいという人もいるでしょう。
・コピーライターで「ほぼ日刊イトイ新聞」の代表の糸井重里氏は、「40代までは他人の要求に応える形で仕事をしていたが、50代になって他人の要求に応えて「やらなきゃいけないこと」だけをやっていたら人生終わっちゃうな、と気づいたといいます。「自分の人生の主人公は自分だ」と気づくのが50代なのだといいます。
・ 精神科医のヴィクトール・フランクルは『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)の中で生きることに疲れた二人の人物が、「もう人生に何も期待できない」と言うのに対して、フランクルは「人生に対して何かを期待するのではない。人生が自分に何かを期待しているはずだ。それが何かを考えてみよう」と問いかけました。
・自分を待っているものはないか。自分がすべきことはないか。自分に期待してくれている人はいないか。自分が生きていることを喜んでくれる人はいないか。このように問うことで、生きる意味が見えてくることがあると、説きました。
・これまで述べてきたように、定年後の長い人生の旅に最も必要なものは、「主体性の心」です。
・会社員時代から、主体性を発揮できる環境を準備しておくことです。“もう一人の自分”を作ることです。会社組織・人間関係とは、別の世界に身を置いてみる。サークル、趣味の仲間、〇〇教室、副業等があります。
・もう一人の自分を演じ分けること、複数の自分を持つことが、定年後も人生を豊かに、主体的にすることに繋がります。

最後までお読みいただきありがとうございました。