亡き父の相続人の調査をしたら、会ったこともない相続人が出てきました!どうしたらいいですか?
・高齢の親御さんが亡くなって、相続手続きを進めるうえで、遺産分割協議の前に必ず行う「相続人調査」は、避けては通れないものです。
・「相続人は誰々」で、「各々相続の割合はいくらいくら」になるのかは遺産分割の重要な内容です。
・「法定相続分」という言葉を知っている方も多いと思いますが、相続人になる人がわからなければ「法定相続分」を算出できません。
・相続人の調査をしていると、顔馴染みの親類ばかりではなく、見ず知らずの相続人を発見することもあります。
・遺産分割協議は法定相続人全員が参加して行わないと無効となりますので、疎遠で会ったこともないような相続人であったとしても遺産分割協議に参加させなければいけません。
・ここでは、相続人の範囲・法定相続分、相続人の調査方法、知らない相続人との連絡方法について、みていきます。
・50代60代、そして定年後に親の相続で慌てないよう、覚えていきましょう。
目次
- 1.相続人の範囲
- 2.法定相続分の割合
- 3.相続人の調査方法
- 4.知らない相続人が出てくることってあるの?
- 5.疎遠な相続人への連絡方法
- 6.疎遠な相続人に財産の内訳は伝えるべき?
1.相続人の範囲
・まずは、ご存じの方も多いと思いますが、民法では、以下の順序で相続人の範囲が決まると定めています。
<相続人の順位と範囲>
第1順位 配偶者+子供(直系卑属)
第2順位 配偶者+父母・祖父母(直系尊属)
第3順位 配偶者+兄弟姉妹
・相続の順位に関わらず常に相続人になるのが配偶者(内縁関係の配偶者や愛人は含まれません。)。
・つまり、配偶者が存在する限りは常に配偶者が相続人となり、あとは第1順位の子供がいれば子供が相続人に、第1順位の子供がいなければ第2順位の父母等へ。そして、父母等が既に他界して存在していなければ、第3順位の兄弟姉妹が相続人になっていきます。
・こうしてみると、家族や身近な親族で話し合えば遺産分割協議が成立するから、「相続人は全員知っている!」と油断してしまいそうです。
・しかし、たとえば前妻との間に子供がいたり、過去に認知や養子縁組をしていたら、その子ども達も相続人となります。
・そうなると、家族会議レベルでの話し合いではすまなくなり、顔を合わせたことがないどころか存在すら知らなかった相続人と協議をしなければならないのです。
・また、同じ親族間であっても相続人が亡くなっていれば代襲相続によって、その子供達が相続人となります。その子供達が先に亡くなっていたら更に代襲相続(再代襲)をして、その下の子供達が相続人となります。
・兄弟姉妹が死亡していれば、その子(甥、姪)が親に代わって相続人となります。
・50代60代そして定年後世代の親御さんは、兄弟の人数が多いため、この兄弟相続になった場合は、遺産分割協議をまとめるのに苦労します。兄弟姉妹が相続人となる場合には、時間と手間を覚悟しなければいけません。
2.法定相続分の割合
・被相続人の「遺言書」がある場合には原則として、それに従うことになります。遺言がない場合には、法定相続分によることになります。
<法定相続分>
配偶者2分の1+子供(直系卑属)2分の1
配偶者3分の2+父母・祖父母(直系尊属)3分の1
配偶者4分の3+兄弟姉妹4分の1
(配偶者は常に相続人)
・血族相続は、すでに説明したように、第1順位が子供や孫、第2順位が父母や祖父母、第3順位が兄弟姉妹となっています。なお、相続人が配偶者のみで、第1~3順位の全ての相続人が存在しない場合は、配偶者が単独で相続します。
・配偶者と子(孫)が一緒に相続するときは、配偶者の法定相続分は2分の1となり、子の法定相続分は2分の1です。配偶者の割合は子が何人いても変わりませんが、子が複数人いる場合には、子は残りの2分の1を均等に分割します。例えば、配偶者と子が2人いる場合は、配偶者が4分の2、子がそれぞれ4分の1ずつという具合になります。
・配偶者と父母(祖父母)が一緒に相続するときは、配偶者の法定相続分は3分の2となり、父母の法定相続分は3分の1となります。父母共に存命している場合には、3分の1を均等に分割します。父母が既に死亡していて祖父母がいれば、同じ割合で祖父母が相続します。
・配偶者と兄弟姉妹が一緒に相続するときは、配偶者の法定相続分は4分の3となり、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1となります。兄弟姉妹が複数人いる場合には、残りの4分の1を均等に分割します。
なお、被相続人に配偶者がいない場合、兄弟姉妹が全ての相続財産を相続し、兄弟姉妹が数人いる場合には、均等に相続します。
3.相続人の調査方法
・ここからは、相続人の調査方法について、簡単に述べてみます。
・相続人調査をする理由は、大きく二つあります。
・一つはいままで述べてきたことですが、遺産分割協議は相続人全員が「遺産分割協議書」に署名捺印(実印)をして成立します。一部の相続人を除外して行った遺産分割協議は無効なので、遺産分割に先立って相続人が誰であるかをまず確定させなければいけません。
・もう一つは、銀行等の金融機関や役所(法務局・税務署)といった申請先に、相続関係を証明するため。
・おそらく、ほとんどの方は相続人に該当する人をある程度は把握されていると思います。しかし、本当に相続人に該当するのが今現在わかっている人だけなのか、それは被相続人の戸籍謄本を調べてみないことにはわかりません。
・被相続人の家族が、「相続人は私たちだけです!」と言っても、本当にそれが真実かどうか何の根拠にもなりませんから、対外的に相続人が誰かを証明するために、相続関係がわかる全ての戸籍謄本を証拠書類として収集しなければいけません。
・相続人の調査は、相続手続きを進めていく前提として、相続人に該当する人を確定させる作業といえます。
・調査は、被相続人に関する戸籍謄本を全て集める方法で行います。死亡記載の戸籍謄本(除籍謄本)だけでなく、改製原戸籍や転籍前の戸籍謄本など、出生から死亡までの連続する戸籍謄本を全て集めなければいけません。
・具体的には、被相続人が亡くなったときの除籍謄本を取得すると、一つ前の改製原戸籍が判明すると思います。そこから改製原戸籍を取得し、そしてさらに前の戸籍謄本を取得する・・・という流れを繰り返して、被相続人が出生した旨が書かれた昔の戸籍謄本まで遡っていきます。
・なお、被相続人が出生した旨が記載されている戸籍謄本とは、通常は被相続人の父親の戸籍謄本になりますので、「令和→平成→昭和→大正→明治」といったように、場合によっては明治時代の昔の戸籍謄本まで取得しなければならないことが出てきます。
・われわれ世代の親は高齢ですから、引っ越し、結婚、離婚、再婚、法律改正による改製、戸籍の電子化等々で多くの戸籍謄本を集めないと時系列に繋げることができません。大変な作業になることを今から、覚悟しておきましょう。
・また、同時に相続人に該当する全員分の戸籍謄本も集める必要があります。
・戸籍謄本は、本籍地の役所でしか取得することができませんので、直接本籍地の役所に出向くか、または郵送の方法で取り寄せていくことになります。
・相続人は、戸籍謄本を取得することによって確定させていきますが、戸籍謄本だけだと読み解くのに時間がかかりますし、瞬時に相続人の範囲を把握することができません。
・そこで「相続関係説明図」をつくります。自分だけでなく、他人に相続関係を説明する際にも非常に便利なものなので、相続手続きを進める初期段階で作っておくと重宝します。
4.知らない相続人が出てくることってあるの?
・相続人調査を進めていくうちに依頼者の知らない相続人が現れる場合は、被相続人から何となく聞いていた場合がほとんどです。
・「昔、結婚していたときの子供の話をしていた」、「過去に認知をした話を聞いた」、「今の母が再婚なのでもしかしたら前妻に子供がいるかもしれない」。このような場合に、相続人が現れることがあります。
・多くは「離婚した前の配偶者の子供」か「子供のいない被相続人の兄弟関係」が疎遠な相続人に該当すると思います。
・疎遠にしていても、他の親戚を介して連絡を取れる場合があると思います。他の親戚と関わりのある疎遠な相続人の場合には、その親戚にお願いをして連絡をしてもらうことをお勧めします。
・相手の不安な気持ちを和らげることができるはずですし、何よりも親戚から話を通していただいた方が遺産の話を進めやすいはずです。疎遠な相続人がいる場合には、まずは身の回りの親戚に連絡をしてみて、連絡が取れる人を探してみるといいと思います。
5.疎遠な相続人への連絡方法
・周りの親戚の誰もその疎遠な相続人の所在を知らないことが考えられます。そういった場合には、住民票や戸籍の附票を取得して住所を確定させる必要があります。
・住所が判明したら、そこに宛てて手紙を送ってみましょう。最初の連絡はなるべくなら専門家からではなく、自分自身で手紙を書いて送った方がいいと思います。
・まずは最初にお手紙で(本当にA4を1枚でいいと思います)亡くなった経緯と相続手続きに協力をしてほしい旨と自分の連絡先程度にとどめた内容で送ります。いきなり遺産分割の話をするよりは、まずは相続の事情を説明してから、連絡を待ってみる方が相手方への印象がよいでしょう。
・なお、いきなり連絡をするのではなく、必ず全ての戸籍謄本を集めて相続人を確定させてから連絡をするようにしてください。法定相続分がわかっていないと、疎遠な相続人からどれくらい相続分があるのか質問をされても答えることができないからです。
・場合によっては弁護士へ相談をされてしまう恐れもあります。忘れずに自分の連絡先(電話番号)も記載するようにしてください。できればメールアドレスも書いておくと、相手が連絡を取りやすいかもしれません。
・疎遠な相続人から返事が来たら、その時の状況に応じた対応方法を考えます。主に考えられる応答は、電話で連絡が来る、手紙で返事が来る、代理人弁護士から連絡が来る。
・とにかく連絡さえ来れば、相手の考え方がわかってくると思いますので、それに応じて検討をしていくしかありません。「法定相続分は欲しい」「相続放棄をしたい」「わからない」といったいずれかの答えが返ってくると思いますが、なるべく不安にさせないよう細心の注意を払って、誠実に財産を包み隠さず対応するようにしてください。
・相手と会って話をする機会を作ることも大切です。
6.疎遠な相続人に財産の内訳は伝えるべき?
・ほとんど関わりのない相続人に相続財産の内訳を伝えたくない気持ちはわかりますが、相続手続きに協力をしてもらうわけですから、財産状況がわからなければ相手も対応方法を検討することができないはずです。
・「借金などありますか?」と質問を受けることもあると思いますが、債務についてもわかっている範囲で答えてください。もし被相続人の債務がわからなければ、正直に「わかりません。」と答えてもいいと思います。
・何かを隠すと相手に不信感を抱かせることに繋がりますから、最初から全部を伝えて相続手続きに協力してもらうことを最優先に考えるようにしましょう。