70歳まで今の会社で働くことができるっていいの?悪いの?

1.改正高年齢者雇用安定法の概要

法律の正式名は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、高年齢者雇用安定法)。2004年、2012年の改正を経て、2013年から定年を定める場合は60歳を下回ることはできないこととなり、企業には、①定年制の廃止、②65歳までの定年の引き上げ、③希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入、のいずれかが義務化されました。これを「高年齢者雇用確保措置」といいます。

ここから、現在は「65歳雇用時代」といわれます。

2021年4月施行の「改正高年齢者雇用安定法」とは、「高年齢者雇用確保措置」を65歳までの雇用を達成していることを前提として、雇用を70歳まで延長することに加えて、選択肢に「高年齢者就業確保措置」を追加して就業の確保に関する措置を新たに盛り込みました。

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70歳までの就業機会を確保する制度
①定年の廃止
②定年年齢の廃止
③継続雇用制度導入(グループ企業内)
 以上は現在もある制度
④グループ企業以外への再就職実現
⑤フリーランス契約
⑥起業実現
⑦社会貢献活動への従事
 ④~⑦が追加された制度
 (①~③は雇用契約であるが、④~⑦は雇用契約ではない)

いずれの措置を講じるかは、企業の努力義務。労使での十分な話し合いのうえで、高年齢者のニーズに応じた措置を講じることが望ましいと運用指針で定めています。企業は多様な選択肢の中から採用する措置を提示し、個々の高齢者との相談を経て適用することになります。

2.新たに追加された創業支援、社会貢献活動への従事支援とは


注目したいのは、就業確保措置の2つです。

フリーランス契約や起業支援とは、フリーランスや自営業として起業する高年齢者と会社が70歳まで継続的に業務委託契約し報酬を支払い、就業を確保する措置です。

社会貢献活動への従事の支援とは、社会貢献事業を実施する者と高年齢者との間で70歳まで継続的に業務委託契約し報酬を支払い、就業を確保する措置です。対象となる事業は、企業が自ら実施する社会貢献事業、もしくは企業が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業です。

特徴は、雇用契約ではなく、労働者性のない業務委託契約等となることです。
実施できるのは、労使間の合意があり、かつ、高年齢者側の希望がある場合のみで、企業が強制することはできません。

3.企業は大きな人事制度の見直しとなる

現在、65歳まで再雇用制度を導入している企業の多くが、モチベーションが下がった役職定年者や再雇用者の組織内での活かし方に頭を悩ませています。
日経ビジネス」2021年2月4日号で、「70歳定年、雇用延長が企業と個人にもたらす「不幸」」という記事を掲載。そのなかで、70歳まで雇用延長するとなった場合に企業がどのように対応するかに言及しています。

・従業員の高年齢化。意識的に人材配置を変えないと長期にわたり同じ業務に就く人が増えるため、若手のモチベーションをそぐ状態が発生する。産業構造の変化やDXといった新しい動きに対応できなくなるリスクが発生。
 ・従業員の数が増える。賃金や厚生年金の負担が重くなる問題も発生する。新規採用、世代間の賃金水準の調整をどうするか。
 ・高齢者人材に対する健康管理、安全管理への配慮。週5日フルタイム以外の選択肢整備など。

つまり、従来型の人事制度では多くの問題が発生し、今後の企業の人事戦略の行く末を左右する大きな問題だと指摘しています。

4.60代後半の働き方の選択肢が増えて幸せなのか

現実的に高年齢者はどのように動くのだろうか。2013年から現在に至るまでの企業の対応を参考にすると、今後も多くの高年齢者は「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・雇用延長制度)」により働く可能性が高いと考えている研究者がいます。

実際、2020年現在、継続雇用制度を導入している企業は76.4%で、定年の引き上げ(20.9%)や定年制の廃止(2.7%)を大きく上回っています。さらに、多くの企業は継続雇用制度における再雇用制度と雇用延長制度のうち、人件費負担が少ない再雇用制度を導入しているので、しばらくの間は再雇用制度により雇用を延長すると考えています。

また、別な研究機関の調査では、55~64歳の正社員を対象に、70歳までの雇用延長制度を利用して行ってみたい働き方(同一企業における継続雇用以外)について尋ねたところ、「兼業で別の仕事に取り組みたい」の回答が圧倒的に多く、「現在とは違う企業で再雇用」を大きく超えていました。また、「資金提供を受けてフリーランスで働きたい」や「支援を受けて起業したい」の回答は非常に少ないものでした。

55~64歳における兼業の意味は、70歳以前に兼業・副業活動を通じて次のステージへの移行についての準備ができれば、能力的、体力的、精神的な負担を軽減し、スムーズに移行できるメリットがあります。70歳を越えて就労するための促進策としても位置付けられます。

そして、ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者でジャーナリストの河合雅司氏は,最新の著書において70歳雇用を推進することにより、人件費総額の押し上げ、組織の停滞による生産性の低下、デジタル新技術修得の困難性など弊害が多いといいます。そのうえで,70歳まで雇用される人はスキルの高い一部で,多くはフリーランス契約やボランティア活動という道を選ばざるを得なくなるのではないか,という見解です。

・デジタル技術の進歩に伴い、働き方の見直しも進み始めている。ジョブ型雇用への移行を進める企業も増えてきた。当然ながら、再雇用の高齢社員に対しても成果や費用対効果を求める流れは強まるだろう。こうなれば、企業が「70歳まで雇い続けたくなる人材」に求める要件が上昇し、ミスマッチが増えることとなる。
・こうした困難を押してまで,70歳雇用の推進に積極的になる企業は多くはないだろう。長年勤めてきた企業で70歳まで働き続けられる人というのは,現実的には国家資格や専門的技能を有するような一部の人材に限られよう。多くはフリーランス契約やボランティア活動という道を選ばざるを得なくなるのではないか。
・70歳雇用社会においては, 60代前半を含めて,これまでのような「定年退職後は補助的な仕事をしながら第二の定年を待つ」といった受け身の意識でいることは,ますます許されなくなります。

わたしの意見。70歳といえば,同じ会社にいたとして約50年間仕えたことになります。じっとしていれば,会社が70歳まで,すべて世話してくれる世界は,幸せなことなのでしょうか。いつまで会社にしがみつくことになるのでしょうか。

創業支援や社会貢献活動の支援にしても,会社の業績が悪ければ,仕事は回ってこないことになります。会社の経営状況に左右されてしまいます。つまり,会社依存は変わらないのです。

人生の大半を会社にコントロールされて生きていくことになりはしないか大変心配です。自らの意思で選択することが大切です。

5.気になること-公的年金の受給開始年齢

公的年金の男性の受給開始年齢は、現在65歳です。60歳受給から現在の65歳受給に年齢が引き上げられたのは、2000年(平成12年)の法改正でした。男性は2013年度から2025年度までにかけて段階的に移行されています。

本来、退職時期と公的年金の受給開始時期は、無収入の期間をおかないように切れ目がないのが生活保障上のあるべき姿です。日本はいまようやく、65歳退職と公的年金受給がマッチしている状態です。しかし、2013年度に65歳雇用が義務化されるまでは60歳退職だったため、年金受給と5歳のギャップがありました。これを緩和するため12年間の段階的移行が取られています。

日本の公的年金制度が破綻寸前との話しは、常に付きまとっています。こういった状況も考え合わせると、70歳雇用時代は「年金受給開始70歳時代」の先触れのような印象を持ってしまいます。

70歳とはいかないまでも、67歳とか68歳とかへの引き上げもあり得ます。海外諸国では年金受給開始年齢が,アメリカは2027年までに67歳に引き上げ、英国は2026-2046年で68歳に引き上げ、ドイツも2029年までに67歳に引き上げが予定されています。
まさかとは思いますが、非常に気になりますね。

6.まとめ

今回は,「改正高年齢者雇用安定法」について深掘りしてみました。新たに追加された措置の概要、企業側の人事制度見直しの機運、70歳まで会社に居続けることは幸せなことなのか、公的年金の受給開始年齢への心配についても触れさせていただきました。

今回の法改正はまだ努力義務ですので,焦って考える必要はありませんが,一部企業ではすでに取り組んでいるところもありますので,会社の就業規則などを調べてみてください。(数年後には義務化されるのでしょうねー)

さて,あなたはその時がきたらどうしますか?70歳まで会社にいたいですか?70歳のときにどういう自分でいたいですか?考えてみてください!