父の死後、口座が凍結されると聞きましたが、葬儀費用を引き出せないと困ります!

・人が亡くなった後、その人の金融機関の口座が凍結されてしまうことはよく知られています。では、凍結される前に葬儀費用を引き出しても問題はないのでしょうか?

・また、そもそも葬儀費用は誰が負担するのが適切なの?そして、それは相続財産から出してもの?といった疑問が湧いてきます。

・葬儀費用は、内容、規模によってその費用は幅がありますが、通夜、告別式、火葬までの一式で一般には100万〜200万円。加えて、お墓を建てるのであれば、それだけで150万〜300万円かかると言われています。

・もしも故人名義の預貯金口座があり、そこにある程度の預貯金があれば、それを引き出して費用に充てたいところですが、亡くなった時点で預貯金は遺産となります。

・事情があったとしても原則、遺産分割の協議・手続きが終了するまでは金融機関から引き出せない。それがこれまでの取り決めとなっていました。

・しかし、2019年の相続法の改正により、「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これによって、遺産分割前であっても、故人の預貯金を単独の相続人が引き出すことが可能となったのです。

・今回は、親御さんの葬儀の費用は誰が負担するのがよいのか、相続財産から出せるのか、「預貯金の仮払い制度」とはどういうものか、その注意点は何か、についてスポットをあててみたいと思います。

・50代60代、そして定年後に高齢の親後さんが亡くなったときに慌てないよう、覚えていきましょう。

目次

  1. 1.葬儀代は相続するの?
  2. 2.葬儀代は喪主が支払うもの
  3. 3.相続財産から葬儀代を支払いたい場合は
  4. 4.口座が凍結されるとどうなる
  5. 5.単純承認したとみなされる
  6. 6.口座が凍結された後でも葬儀費用は引き出すことができる「預貯金の仮払い制度」とは
  7. 7.仮払い制度の注意点

1.葬儀代は相続するの?

・葬儀代(葬式費用)は誰が支払えばいいのでしょうか?相続手続きの一番はじめに悩む問題は実はこれかもしれません。

・相続人の誰かが一旦立て替えればいいのか、仮に相続人の1人が立て替えて支払った場合、その他の相続人に請求することはできるのか。それとも被相続人の相続財産の中から出せばいいのかが問題となります。

・被相続人の葬儀代(葬式費用)は、被相続人の死亡後に発生するものです。

・相続は債務を含めて、被相続人が生前に有していた財産に限ります。簡単に言ってしまえば、死後に発生する葬儀代は相続人が相続する債務ではありません。そのため、葬儀代(葬式費用)は相続財産ではなく、相続の対象とはなりません。

・よって、各相続人が当然に相続し分担して支払わなければならない性質ではありません。

2.葬儀代は喪主が支払うもの

・それでは、普通は誰が葬儀代(葬式費用)を支払うものなのでしょうか。これについては、法律上は定まっておらず曖昧なものとなっています。

・日本の一般的な慣習では長男が喪主となり、葬儀費用を負担するケースが一番多いです。または、長男ではないが実家の家業を継いだ相続人が負担することも多いです。

・葬儀主催者(喪主)が相続人であればその相続人が支払うべきでしょうし、相続人ではないものが葬儀主催者(喪主)となった場合にはそのものが支払うべきものということです。

・葬儀費用については民法の契約による債務であり、繰り返しになりますが相続には関係ありません。葬儀を行いたい者が葬儀会社と契約して葬儀費用の債務が発生しているに過ぎません。

・葬儀代は、葬儀会社と喪主の契約であって、相続債務ではありませんから、相続人に支払う義務はありません。しかし、実務的にいえば、相続財産から支払ったり、相続人同士で負担し合っているものと思われます。

3.相続財産から葬儀代を支払いたい場合は

・葬儀代(葬式費用)は相続債務ではないことは前述しましたが、そうは言っても相続財産から支払いたいといった事情が出てきます。

・葬儀代(葬式費用)は一般的に数十万円から数百万円といった大きな金額となります。この多額の費用を一旦立替えて支払うことができる相続人がいればいいでしょうが、そうではないのが現実です。

・このような場合には、相続財産から支払ってあとで遺産分割をしたいと考えるかもしれませんが、問題となるのが預貯金の凍結です。

・単純に被相続人の預金を引き出しに銀行の窓口へ行こうものなら即座に被相続人名義の銀行口座は凍結されてしまい、引き出すことができなくなってしまいます。

・聞くところによると、銀行預金の凍結がされる前に銀行カード(キャッシュカード)によって引き出して葬儀代(葬式費用)だけ引き出してしまうことがよくあるようです。

・この行為自体がいいか悪いかは置いておいて、被相続人名義の預金をキャッシュカードで出金して、当面の葬儀代や病院費の支払いに充てているのが実情なのかもしれません。

・なお、出金するためにはキャッシュカードの暗証番号を知っていることが第一条件となりますので、暗証番号がわからなければ相続手続きを進めるしかありません。

・香典は、死者の霊前に供えるものですが、遺族を慰めるために送られる金銭であったり、故人の家族のために贈られるものでもあって、葬儀代(葬式費用)に充てられるべきものです。

・そういった理由から、その香典については各相続人が分割請求することはできず、また相続税の課税対象にもなりません。香典は相続財産ではないので、遺産として遺産分割する対象ではないからです。遺産分割をしなくてはいけないのはあくまで相続財産に限られるのです。

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4.口座が凍結されるとどうなる

・人が亡くなった後、金融機関がその事実を知った際には、その人の口座は凍結されます。凍結されると、預金の引き出しや入金などの一切の取引ができなくなります。

・したがって、葬儀に必要な費用などは口座が凍結される前に引き出しておきたいと考える方もいるでしょう。凍結されると、遺産分割協議が終わり、金融機関に凍結解除の手続きを行うまで、引き出すことはできなくなるため、費用を一時的に肩代わりするなどの方法をとらなければなりません。
 
人が亡くなったからといって、その日のうちに口座が凍結されるわけではありません。口座が凍結されるのは、金融機関がその人が亡くなったことを知った時点です。

・通常は相続人からの報告で知ることになりますが、なかにはニュースや新聞などで知ることもあるでしょう。その際には相続人からの報告を待つことなく、口座が凍結されることもあります。

5.単純承認したとみなされる

・口座が凍結する前にお金を引き出した場合、その人は亡くなった人の相続において、単純承認したとみなされます。単純承認とは、その相続においてすべての財産を相続することを意味します。

・もちろん、人によっては借金を残して亡くなるケースもあります。そのような借金も当然相続財産に含まれ、残された人が相続した割合でその借金を返済しなければなりません。そのような借金があるならば、そもそも相続を放棄しようと考える人もいるかもしれません。

・相続の放棄には、相続の権利すべてを放棄する相続放棄と、借金を除いた正の財産のみを相続する限定承認があります。どちらも、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がありますが、相続放棄は1人で申し立てが可能です。

・しかし、限定承認の場合は、他の相続人全員の合意が必要となる点に注意してください。実務的には、ほぼありません。
 
・葬儀費用の目的で引き出したのなら、他の相続人が後でわかるようにその費用をいつ、だれに支払ったかという証明になるもの(請求書や領収書など)を残しておきましょう。
 
・そうしないと、他にも私的な用途に使ったのではないかと考え、遺産分割協議の際にもめる原因となります。亡くなった後に必要な生活費を引き出した際も同様です。必ずどのような目的でどのくらい支払ったかをわかるようにしておくことが大切です。

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6.口座が凍結された後でも葬儀費用は引き出すことができる「預貯金の仮払い制度」とは

・このような問題解決のため、現在では口座が凍結された後でも一定の目的の範囲内であれば引き出しができる制度が用意されています。それが2019年7月に新たに始まった、遺産分割前の相続預金の払戻し制度です。

・相続人の相続が開始すると、葬儀費用、火葬費用、医療費、生前の生活費等、被相続人に関する支払いが意外に多いことに気づきます。

・この被相続人に関する支払いを相続人がすべて立て替えるのは、相続人にとっても大きな負担となります。

・しかし、法改正により一定条件を満たした一定額については、相続手続き完了前に引き出すことが出来るようになりました。

・今まで金融機関の裁量で、凍結中の口座の引き出しができたことはありますが、基本的に凍結した口座内の預金の引き出しは相続手続きを完了させる必要がありました。

・これが、2019年7月から仮払い制度が開始し、一部ではありますが凍結中の口座の預金を引き出すことが出来るようになりました。

《仮払いを受けられる金額》
相続開始日の預金残高×3分の1×請求する相続人の法定相続分
上記の額が150万円を超える場合は150万円
これは、金融機関ごとの額ですから、別の金融機関でも同じ条件で150万円限度として仮払いを受けることができます。
<相続した預貯金の仮払い制度の計算例>
事例
・相続人・・・配偶者、子2人
・相続財産・・・A銀行3000万円、B銀行1500万円、C銀行600万円
上記のような例の場合、相続人は下記の額の仮払いを受けることができます。
配偶者・・・A銀行=150万円、B銀行=150万円、C銀行=100万円
子(各自)・・・A=150万円、B銀行=125万円、C銀行=50万円

7.仮払い制度の注意点

・仮払い制度には注意する点があります。

・遺産分割協議に悪い影響を及ぼす可能性。仮払いの制度は相続人の1人から請求できるもので、遺産分割協議前にも金融機関に対して請求できてしまいます。他の相続人の了解も得る必要もないため、他の相続人の立場からすると相続財産を減らす行為と考えられ、勝手に仮払いをしたことで遺産分割協議に悪い影響を及ぼす可能性があります。

・仮払いをしても相続財産が確定するわけではない。また、相続財産をどう分けるかは、相続人全員に決定するものであるため、仮払いを受けられたからと言って、その金銭がその相続人の財産と確定したわけではありません。

・このような理由から、仮払い制度を利用する場合は、下記のような利用に限ったほうが良いです。

①葬儀費用、火葬費用など。②入院費用、生活費等、生前の被相続人に掛かった費用。③高齢の配偶者の当面の必要な生活費。

・ただ、この仮払い制度ですと、元々の預貯金財産が少ない人の場合は仮払いの額も少額になってしまいます。被相続人の葬儀費用や配偶者の生活費などに必要な額の仮払いを受けられないこともあります。

・このような場合には家庭裁判所に仮払いの仮処分をしてもらう方法もあります。ただ、この仮払いの仮処分には大きな問題点があります。

・それは仮処分の決定を受けるまでの手続きのハードルが高いことです。家庭裁判所の仮払いの判断の条件の厳しさではなく、弁護士なしでこの手続きをすることのハードルです。

・葬儀費用や、配偶者、子の当面の生活費等は、被相続人が予め現金で準備しておくことも必要です。