定年退職後の働き方は?どんな選択肢があるのか?

1.60歳以降の就業状況

60歳、65歳以降の就業の現状と動向について、内閣府平成29年版高齢社会白書(全体版)

にもとづき説明します。
平成28(2016)年の労働力人口総数6673万人に占める60歳~64歳の割合は541万人8.1%で減少傾向にある一方、65歳以上の割合は786万人11.8%で上昇を続けています。

<60歳以上の就業状況をみると、男性の場合>
①60~64歳:77.1%、
②65~69歳:53.0%、
③70歳~74歳:32.5%
65歳を過ぎても半数の人が就業しています。
<女性の場合>
①60~64歳:50.8%、
②65~69歳:33.3%、
③70歳~74歳:18.8%
となっています。

※就業者:自営業主、家族従業者、雇用者、役員をいう。

65歳以上の雇用者(事業主、役員を除いている)400万人について雇用形態をみると、正規の職員・従業員が99万人24.7%に対して、非正規が301万人75.3%となっています。

65歳以上の雇用者は4人に3人が非正規社員(非正規とは、「嘱託」、「契約社員」、「パート」、「アルバイト」をいいます)ということがわかります。

2.50代60代の就労希望年齢と就労希望形態の状況

次には、実際にどのような働き方を希望しているのかみていきます。
あなた自身の意見と比較しながらみてください。

現時点で、よりリアルに定年前正社員の方が実際にどのように考えているのか公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団が公表している「50代・60代の働き方に関する調査報告書」(2018年7月)からみていきます。調査の対象者は50~64歳の定年前正社員男女合計2500人(公務員・教員を含む)です。

はじめに、定年後も働きたいかを尋ねたところ、定年前正社員の約8割が定年後も働くことを希望していました。
続けて、定年後も働くことを希望すると回答した方に定年後の働き続けたい理由を尋ねたところ、

<定年後の働き続けたい理由(複数回答)>
①男女各年齢層とも「日々の生活維持のため」の割合が最も高く、57.5~73.1%
②次いで、「生活のハリ・生きがいを持つため」、年齢が高いほど「生活のハリ・生きがいを持つため」の割合が高くなる
③女性で「社会とのつながりを持ちたいため」が、60代前半で28.3%と高いのが目立つ

決して働くことが「大好き!」なのではなく、生活していくために収入を得なければ暮らしていけないという、止むに止まれぬ事情があるのです。

次に、定年後はどのような働き方を希望するかについては、

<定年後に希望する働き方(複数回答・「働かない」と回答した人を除く)>
①男女各年齢層とも、最も希望が多かったのは「継続雇用」で、男性の場合、各年齢層で約7割を占めた。
②次に希望が多いのは「再就職」で男女とも2~3割で続いている。
③男性は「起業」が50代前半で9.7%と、50代後半・60代前半の男性や、女性よりも高い。
④60代前半の女性は、「NPOやボランティア」が男性や50代女性よりもやや高く、9.8%となっている。
⑤「地域のシルバー人材センターへの入会」は、男性の各年齢層で3.5~4.3%、女性の各年齢層で4.6~7.4%となっている。

次に、定年前正社員に加え、60代の定年後有職者男性2000人に対して、何歳まで働きたいかを尋ねています。

<引退希望年齢>
①4人に1人が「引退はしたくない」と、生涯現役を望んでいます。
②引退希望年齢としては、定年前正社員の場合では、50代後半では65歳(男性20.8%、女性23.0%)。60代前半では、70歳を希望する割合が最も高い(男性24.0%、女性24.0)。
③定年後有職者男性をみると、60代後半では、70歳を希望する割合が34.2%と最も高い。

定年が近づくにつれて、具体的な老後資金の確保や生きがいを重視してもっと働きたい!という思いが強くなります。

3.定年後の就業形態の特徴,どんな働き方なのか

定年後の進路で人気が高いのは再雇用制度など同じ企業での「継続雇用」ですが、その他にも転職を表す「再就職」、「起業」、「NPOやボランティア」、「シルバー人材センターへの登録」など幅広く世界が広がっていることがお分かりいただけたでしょう。

それでは、それぞれの特徴についてみていきます。

■定年再雇用(継続雇用)

「定年再雇用」という制度は、いったん会社を退職したうえで、期間1年の有期の契約社員として雇用されるもので、「嘱託」や「シニア職員」という形態の非正規社員です。

<メリット>
 ・給与は大幅に下がるが65歳まで同じ会社で働くことができて安心。
 ・これまで仕事で身につけた知識・経験・スキルを生かすことができてストレスが少ない。(別な業務に移る場合もあるので一律ではない。)
 ・現役時代よりも時間や業績に追われなくなる、周囲の評価を気にしなくて済むので気が楽。
<デメリット>
 ・収入が大幅ダウンする。大手企業では年収1000万円前後だった人が1/3以下の250万円~300万円程度になってしまう例も珍しくない。
 ・原則として、ラインの管理職ではないため、部下もいないし、後輩が上司になり、権限も責任もなくなります。
 ・仕事にやりがいを感じられない、自分の居場所がないという人も少なくない。
 ・65歳で再雇用が終了した後に、稼ぐ手段は限られてしまう。

■転職(再就職)

かつては,年齢が理由で不採用になるケースも多かったのですが,現在は人手不足もあり,転職のハードルは以前に比べると大きく下がっています。会社での人間関係に我慢ができないといって,厳しい状況の中で転職を目指し,満足できる仕事がなかなか見つからないという人も多くいます。ハローワークのほか,民間の転職マッチング会社もあります。60代以上はパートタイムへの転職が多いのも特徴です。65歳以上では男性の約8割,女性はほぼ全員がパートタイムです。

あるシニア専門の転職サイトによれば人気の職種は、電気や機械などのエンジニア職、飲食業のホールスタッフ、誘導や案内などの警備職で深夜勤務が時給もよく希望者が多い、女性に人気なのが清掃業です。 

■起  業

一般的には、起業というのは、資金を用意する必要があるとか、安定した売り上げを上げるための顧客をどう開拓するかという面などで、とてもハードルが高いと思われています。また、会社員のように毎月、安定した給与収入が約束されるわけでもないため、家族を説得するという壁も出てきます。
最初から、大きな投資をして会社を設立したり、本格的な事業を立ち上げたりということではなく、自分ひとりで、自宅でやるスモールビジネスからスタートし、リスクを少なくするという形もあります。

起業についてのアンケート調査で、50歳以上に人気の職種は、「コンサルタント業」と「小売業」が同率で1位。次いで「飲食業」(13.3%)との結果でした。他の年代と比較して、「教育・学習支援」が10.0%と高い回答結果となっています。

起業はリスクが高いと、周りが反対することもあります。そのため、これまでの経験を活かして収入を得る手段として起業を考えます。コンサルタント業や教育・学習支援は、これまでの経験を活かして、企業に対してアドバイザー契約をするようなケース。小売業や飲食業にしても実店舗を持たず、ECサイトや配達小売、ゴーストレストランという方法でリスクを最小限にする方法もあります。大きな元手をかけず、経験を活かしてスタートするケースが多いと考えられます。

■NPOやボランティア

社会や地域の課題解決をするNPO団体などに関心があれば、積極的に係るのも定年後の働き方の一つです。昔は、ボランティアといえば「無償」というイメージでしたが、しっかりした活動のためにも「有償」で人材を求める団体が増えています。求められるスキルもさまざまで、団体の活動に関する専門的知見や経験だけでなく、サイト制作や業務マニュアルの作成をはじめ、資金管理や経理の経験が喜ばれるケースもあります。もし、経済的に厳しそうであれば、再雇用などで働きながらボランティア活動に参加するという選択肢もあります。

■シルバー人材センターで仕事

シルバー人材センターとは、公益法人で原則として市区町村ごとに設置され、各センターが独立して事業を運営しています。事業は、センターが一般家庭や事業所、官公庁から簡易な業務を請け負い、登録した高齢者に仕事を提供します。登録した高齢者は、働いた内容によって収入(配分金)を受け取ることができます。仕事の内容は、翻訳、通訳、事務、草刈りや清掃など多岐にわたります。収入は、全国平均で月8~10日就業した場合で月額3~5万円ほど。入会するのは600~3000円程度の年会費を納める必要があります。

■フリーランス

フリーランスになって、企業や個人と「業務委託契約」を結んで仕事を請け負うという方法もあります。専門分野や経験を生かすことができます。その分野で認められるレベルの知識とスキルのブラッシュアップが必須になります。また、専門性や能力を証明するために実績として示せるものや経験を準備することが大切になります。わたしの場合の資格を生かした「士業」での開業も、ここに入ります。

このように、多種多様な働き方がありますね。定年後の人生をどのように過ごしたいかという自身の主体的な意思の確認、また、新たな生き方を見出すという観点からすれば、やはり50代から定年後に向けた助走や準備を始めることが大切です。

4.今回のまとめ

今回は、・定年後の就業状況はどのようになっているのか、・60歳以降にいくつまで就労したいか、どのような働き方を希望しているか、を公表資料に基づいて考えました。また、就労形態それぞれの特徴をみてみました。あなたは、どれを選択しそうですか?その選択であなたは幸福になりそうですか?ご家族の意見はどうでしょうか。「自己決定感(=自分が責任を背負って決める感覚)」を意識しながら、考えてみましょう。