定年後の「生き方」はどのように考えたらいいのか?
1.「生き方」とは
辞書で「生き方」を引いてみると、意味としては人生のあり方や生きる姿勢と出てきます。類似語には「生活スタイル」、「ライフスタイル」、「生活様式」などがあります。
「生き方」は、その人の価値観やアイデンティティを反映するものです。例えば、人生において仕事に価値を置くのか、家族に価値を置くのか? 「自分らしい生き方」というときの「自分らしい」とはどのようなアイデンティティなのか?など。
ここでは、「生き方」を「その人の生きることに対する思考や行動の基本的なルール」と仮置きして進みたいと思います。
60歳定年後また65歳退職後、組織から離れるのを心待ちにしている人もいるでしょう。数ヶ月後には、毎日毎日が退屈で何をしてよいか不安になるそうです。本人もつらいでしょうけど、もっとつらいのは、家で所在なく過ごす夫と一日中、過ごさなければならなくなった奥さんの方ですね。奥さんも息が詰まります。
家に居づらくなって向かうのが、図書館。午前中の図書館は中高年男性で満員です。それも勉強ではなく、単に新聞や雑誌を読んでいます。
人生設計の大半を会社が面倒を見てくれました。それまでは会社に頼り切って,自分から動かなくてもうまく生きてこられました。しかし,定年後は受け身ではなく,主体性をもった「生き方」をしないと、老後に自分の居場所がなくなり、趣味なし!、友なし!、生きがいなし!の人生後半を迎えることになります。
2.定年後の自由な時間をどう過ごすのか
総務省「平成28年社会生活基本調査」では、1日の生活時間を1次活動(食事や睡眠など生理的に必要な活動)、2次活動(仕事、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動)、3次活動(これら以外の各人が自由に使える時間における活動)の3つに分類しています。
3次活動を分かり易さから「自由時間」と呼びます。
・自由時間は年齢層が上がるほど増え、男性では60~64歳では7時間2分、65~69歳で8時間31分であり,70歳以上では9時間を超えます。
・因みに、40代では5時間9分しかありません。
・仕事などに係る2次活動の時間は,男性では60~64歳では6時間25分、65~69歳で4時間31分であり,70歳以上になると徐々に3時間を割り込んでいきます。
厚生労働省「令和2年簡易生命表」によると、60歳の平均余命は男性24.21年、女性29.46年、65歳の平均余命が男性20.05年、女性24.91年です。おおよそ男性は85歳まで、女性は90歳まで生きられる計算になります。
65歳以上の男性の自由時間は9時間11分あります。65歳で再雇用の退職を迎えた男性は、その後の寿命を迎えるまでの20年間に約6.7万時間の自由時間を手にします。60歳定年退職した場合は、これに1.3万時間が上乗せされますので、合計で約8万時間になるわけです。
日本の就業者の一人当たり年間総実労働時間は1719時間。20歳から60歳まで40年間働いた場合、トータルの労働時間は約6.9万時間、65歳まで45年間働いた場合で約7.7万時間。男性の定年後の自由時間がいかに長いかが分かりますね。
定年後を活き活きと過ごすためには、「仕事」と「お金」の問題に加えて、自由時間の「生き方」についても考えることが大切な理由です。
3.生きがいを感じる時は
では高齢者はどのような時に生きがいを感じるのでしょうか。
内閣府発表の平成26年(2014年)の高齢者の日常生活に関する意識調査結果から実際に生きがいを感じる時の回答をみると、
トップは「趣味やスポーツ」(47.3%)、「友人や知人との食事や雑談」(42.3%)、「家族との団らん」(39.4%)、「旅行」(33.5%)、「孫との交流」(24.0%)、「社会奉仕や地域活動」(15.5%)、「勉強や教養に身を入れている時」(12.2%)など、自由時間で生きがいを得られる機会が多いことが分かります。(「仕事」は24.5%でした。)
自由時間は起きて活動する時間の約半分を占めるメインの活動の時間ともいえます。自由時間の充実感、満足感が生活自体の満足感に反映され、生きがいに直結してくる時間です。
自由時間に満足できない理由として、男性で「仲間がいない」とあり、仲間・友人とともに自由時間を楽しむ準備を行っていることや、社会活動や地域活動に参加して仲間をつくっているかが自由時間の充実に関係してくるといえそうですね。
4.定年後の「生き方」の課題
定年後にやりたい事のアンケート調査は,常に「旅行」がトップです。しかし,年がら年中,旅行できるのはごく一部の人に限られます。ほとんどの人は,旅行していない時間の方が多いのです。この日常の時間をどのように過ごすのか,どうやって歩いていくのかはたいへん重要なことですね。
出世が出来なかったことを悔やみ,悔やむだけならまだしも,そのことで前の会社や同僚を恨めしがって退職後も負の感情を引きずったままの人がいます。これでは,定年後の人生の再スタートをうまくきることができません。定年が間近いのにウジウジと周囲に恨み辛みを言い続けて,やけ酒ばかり飲んでいるのは勿体ないことです。人生の目的は会社での「出世」ではなく,「幸せ」になることのはずです。早く切り替えて前を向くというのは大切な準備ですね。
また,自宅にいる時間が長くなりますので,家庭の中,つまりパートナー(妻,夫)との間柄も大きく変わってきます。例えば,専業主婦の奥さんの場合,すでに,平日の過ごし方は決まっていて,仲のいい友人と,スポーツジムで汗を流し,ショッピングや習い事やランチをします。そこに突然,定年夫が割り込んできます。三食の面倒も見なければなりません。これでは,夫婦の関係もギクシャクしてきます。これは大きな課題になりますね。
スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣~人格主義の回復~』で著者は,私的成功の習慣として,第1から第3まで3つの習慣を提唱しました。このうち,定年後の人生にとってとても重要だとおもうのが,第1の習慣「主体的である」と,第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」の2つの習慣です。
はじめの「主体的」であるとは,自発的に率先して行動することだけを意味するものではなく,人間として,自分で選んだ人生の責任を引き受けることも意味します。今日の自分があるのは,過去の選択の結果だということですね。定年後は,寄り掛かる会社はありません。妻にも甘えられません。自分の人生を主体的に生きていくことが今ほど求められていることはありません。
つぎに「終わり」とは,まさに自分の葬儀の場面。人生におけるすべての行動を図る基準とするために,自分の人生の葬儀を思い描き,それを念頭において今日という一日を生きるということです。その土台となるのがあなたの価値観であり,アイデンティティです。自分が目指すものや大切にしたいものをイメージし,周囲に流されずに自分が望む方法に進んで行きたいものですね。
5.まとめ
今回は,定年後の「生き方」を深く広く考えていくにあたって初回。主なテーマとなる事柄を提示してみました。
ひとつには,現役時代の労働時間に匹敵する定年後・老後の「自由時間」をどのように過ごして行くかといった課題。自分の居場所をどのように作るのかという課題もありますね。「趣味」ばかりでなく他者との繋がりをもつということが大切でしたね。
そして,会社員時代の「満員電車から降りる」マインドセットの切り替えが割と大切な課題ではないでしょうか。また,妻や夫などパートナーとの関係の再構築も課題になりそうです。
最後に,会社員人生で忘れかけていたかもしれない「主体性」,「自分らしさ=アイデンティティ」の再発見も重要です。
どれも準備時間が大切ですね。