定年後に妻・パートナーと仲良く過ごすために必要なことは?

1.定年後にある妻への勘違い

「定年後は奥さんを大事にしよう!」「奥さんと一緒に過ごすようにしよう!」と、気負う人が少なくありません。その結果、何をやるにも妻と一緒という形になります。

妻が買い物や散歩に出かけようとすると、付いていく。ジムにも、カルチャースクールにも一緒。果ては、友達とのランチにも付いて来る。これでは、妻のほうも、まとわりつかれて鬱陶しくてたまりません。

また、よくありがちなのは、ずっと家に居るうえに、朝ごはんを食べた先から「お昼ご飯はなにか?」、奥さんが出かける時に「どこへ行くのか?」「いつ帰ってくるのか?」、「晩ご飯はどうするのか?」と何から何まで奥さんに寄りかかりきりになってしまうパターンです。

こんな状態が続けば妻もストレスを感じるのは当たり前です。

夫側は一緒にいられて、仲良く思っていても、妻は定年までは「亭主元気で留守がいい!」で自分自身の世界を作ってきたわけですから、定年夫は突然の乱入者でしかありません。「勝手にやってほしいわ!」といわれるのが落ちですね。

これをずっと続けていると、熟年離婚ということになりかねません。

厚生労働省の「人口動態統計月報年計」(令和元年=2019年)を見ると、24年前の1995年と比べ、離婚の総数は4.7%増に留まっていますが、婚姻期間が25年以上のいわゆる熟年世代をみると、同じ比較で60.9%増と最も大きく伸びています。

夫側は特に何をしなくても会社という居場所があり、それにのめり込んできました。その間、妻は放ったらかされていながら自分の居場所、世界を作り上げて逞しく生きてきたのです。ママ友しかり、趣味の仲間、地域の自治会、旧友などなど交友範囲はとても広いのです。

つまり、奥さんやパートナーは、自立した世界とネットワークを構築しているのですから、構ってあげようなどと思う必要は全くないわけです。

2.男性脳と女性脳は違う

人口知能研究者で随筆家の黒川伊保子氏『定年夫婦のトリセツ』(SB新書)によると、男女の脳は間逆ともいえるほど大きく異なる性質を持っています。

男は遠くの、動く異物に目がいき、女は近くの、愛しいものに意識が行く。男女ともおちついた状態ではどちらの見方もできるのだが、とっさには、真っ二つに分かれるのである。幼き者に危険が迫れば、男の目線は危険なものに向かい、女は幼き者から目を離さない。

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このように、男女はとっさのときに正反対の反応をして、愛する者を守り抜き、真実を照らし合う。「二つ揃って完全体」になるペアの装置だといいます。

女性は、夫が「自分と同じように、愛する人の所作を察して、手を差し伸べやさしい声をかけられるはず」と思い、それができない夫に絶望します。一方、男性は妻が「自分と同じように、事実を冷静に見極め、最も合理的な答えを出すことを望んでいる」と思い、共感してほしい妻に正論で返してしまって地雷を踏むのです。

わたしにも、苦い経験があります。あるときに妻が、「あなたって何か話したら、こうすべきだ!とか、何々を改善すべきだ!っていつも言うけど、わたしは答えを求めていないの。ただ相槌打って、聞いてくれればいいから!」と言われました。共感が欲しかったの?知りませんでした(笑)

それからは、答えを求められていない場合の会話では努めて、「そうなんだ!」「へー!困ったね!」「たいへんだったね」としか言わないようにして、夫婦の会話を切らないようにしています。

夫婦の会話がないのはとても寂しいものです。定年夫婦が会話ですれ違うと、実に辛い思いになります。先ほどのように、対話方式のすれ違いに注意しなければなりません。

同書で黒川伊保子氏は、次のようにも述べています。

 夫である人は、妻が何かを語り始めたら、彼女が今、「心の文脈(共感とねぎらい)」を欲しているのか、「事実の文脈(合理的な正解)」を欲しがっているのか判断してほしい。わからなかったら「心の文脈」だと思えばいい。

社会に出るために、「男たちは、いったん心の文脈を閉じる」のだそうです。そして、氏に言わせると、定年退職して家に帰ってくる男は「心の文脈」を取り戻そうとしているらしいです。

つまり、この心の文脈とは「共感力」のことです。女性脳は共感してもらうとストレス信号がみるみる減衰するという特性を持っています。定年夫は、定年で家に帰る前に「共感力」を見につける必要があるわけです。

これは、日頃の会話でトライアンド・エラーして、妻と言葉が通じるように話して覚えることです。

同書に具体例をあげています。たとえば、妻が「なんだか腰が痛くて」には、まずは心配そうに「腰か、それは辛いなあ」と応えます。「片付け物は俺がするから、座ってて」と申し出るのが一番いい。「医者に言ったのか?」「早く医者に行けば」は、最悪のNGワードです。

3.夫婦の距離感「ソーシャル・ディスタンス」をとろう

夫による妻へのストレスが高じて罹る病「夫源病」。

病名を作った石蔵文信医師によると、その発病の仕組みは、夫が威張っていて、思いやりがなく、命令口調でしゃべり、何かにつけ「そんなことして何になる」と言って妻の言動を否定します。妻たちは、家族のために人生を捧げたあげく、延々と続く家事労働に労いももらえず、存在価値を貶められ、わずかな自由も封じられて病気になっていくのだそうです。

そうして、夫の帰宅時間になると動悸がしたり、めまいがして具合が悪くなるのだといいます。

こんな事態にならないために、まずは「妻に共感する」ことを上げています。「言うは易し行うは難し」と感じている方も多いと思いますので、もうひとつの方法を。

それは、「距離をとる事」「夫婦のソーシャル・ディスタンス」を取ることです。

冒頭でも述べたように、一日中べったり一緒にいるのは、お互いに過干渉ですよね。互いの自由時間をいかに「いい間合い」で過ごすか。結論から言うと、わたしは「一緒に楽しむ」と「一人で楽しむ」のバランスをとることが大切だと思っています。

なぜかというと、例えば、二人で共通の趣味を持つことを考えた場合に、夫婦だからといって一緒の趣味に興味があるとは限りません。インドア派、アウトドア派、ジャンルも各種あります。本当に興味がないのに、付き合うのは長続きしないからです。

無理して相手に付き合うのではなく、それぞれが自分の趣味を楽しみ、相手の邪魔をしない、相手を尊重するようにするのがいいのではないでしょうか。

また、同じ趣味を持った場合に、厄介な問題があります。教え、教えられることがストレスになるということです。経済コラムニストの大江英樹氏は著書の『定年前,しなくていい5つのこと』(光文社新書)で、以下のように述べています。

・相手が初心者であれば、「教えたい」という衝動に駆られます。実はこれがくせ者です。
・教える方も、相手がうまくできなかったりすると、イライラしてつい厳しい口調になってしまったりする。他人であれば遠慮してそこまでキツク言わないのに、身内だとつい遠慮のない言葉遣いになってしまうこともあります。これでは楽しいはずの趣味が逆にストレスになってしまいます。

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大事なことは、何が自分たち夫婦にとって一番適しているのかを考えること。「共通の趣味」は楽しい生活を送るたった一つの手段でしかありません。それを無理して、快適な暮らしができなくなるのなら、やめておきましょう。

お互いにやりたいことをするようにして、趣味に関する干渉はせず、妻のやりたいことを尊重することが大切ではないでしょうか。やりたいことが一致した場合は一緒にやるくらいのバランス感覚が「夫婦の距離感」に最適かなと思います。

夫源病の話しにも関連しますが、妻に関する固定観念を変えていくことも非常に大切な準備になります。

それには、定年前から妻の1日、1週間、1ヵ月のスケジュールを共有し、自分の潜在意識に埋め込むことです。そうすることによって、妻は外に出かけるもの、外食するもの、友達とお茶するものということを自然に覚えます。

家事もできるようになっていれば、妻が出かけるときに、「いってらっしゃい!ゆっくりしてきてね!」と快く送り出すことができるようになるのが理想です(笑)

4.まとめ

今回は、「一緒にいる時間が多くなる」ことで、夫婦はどのように過ごしたらいいのかという問題を掘り下げてみました。

奥さんやパートナーの時間、過ごし方を尊重することから始めていきましょう。適度な「夫婦の距離感」を取ることも大切です。

自分の固定観念を打破するための準備が重要になってきますね。かく言うわたしも,妻の小言を聞きながら少しずつわかってきたかな?