定年後,お金があれば「幸せ」になれますか?

1.そもそも「幸せ」「幸福」とは何か

「3大幸福論」といわれているものがあります。年代の古い順に、ドイツ人のカール・ヒルティ『幸福論』(1891年)、スランス人のアラン『幸福論』(1925年)、イギリス人貴族のバートランド・ラッセル『幸福論』(1930年)の三冊です。

それぞれ幸福についてどのように捉えているかというと、はじめのヒルティは仕事について多くを割いています。人間の幸福の最大部分は、絶えず続けられる仕事と、そこから生まれる「喜び」や「やりがい」であるとし、「財産」「名誉」「地位」は人を決して幸せにしないとします。

ヒルティ『幸福論』より
 ・人間は愛と責任感に基づいて仕事に没頭し、そこに意味を見出し、何かを創造し、成功することに幸せを感じる。最も崇高な時間の消費方法は、常に「仕事と愛」である。財産の所有と管理、大きな名誉や権力を伴う地位は、本当の幸せを与えない。
 ・現実主義者は、この世は「人より少しでもよい立場に立つことを追い求める生存競争の場」であると言う。しかし、本当の幸福は、利己主義を脱し、自分は何らかの役に立っているのだという確信を抱いて、落ち着いて自分の仕事にいそしむことの出来る状態にある。
・そのためには、人は積極的に「良い習慣」を身に付けなければならない。

アランは、幸せになれるかどうかは、自分の心持ち次第で幸福は自分で作るものだと言います。不機嫌になって人生を台無しにしてはいけないとします。フランス版処世術、幸せに生きるための考え方といった本。

アラン『幸福論』より
 ・自分が不幸であることに不機嫌になってはいけない。不幸なだけでも十分なのに、不機嫌になることはそれに輪をかけて二重に不幸になる。
 ・何の役に立つか分からない仕事をするのは苦痛である。しかし、一日がかりの仕事でも、実際に役に立つ仕事であれば、人はそれ自体を楽しむことができる。
 ・金持ちだからといって幸せになれるわけではない。
 ・人は幸せだから笑うのではない。笑うから幸せなのだ。
 ・とりわけ明瞭だと思われるのは、幸福たらんと欲しなければ、絶対に幸福にはなれないということだ。

ラッセルは、人は自発的かつ主体的に不幸を回避し、幸福を「獲得」しなければならないと言います。この世の不幸を産み出す源泉は「悲観主義」「競争」「過度の刺激」「精神的疲労」「嫉妬」「罪悪感」「過度な自意識」そして「世間からの評価」であるとします。

ラッセル『幸福論』より
 ・仕事における成功や財産は、幸福の一つの要素にはなり得る。しかし、他の要素が犠牲になってしまっては、成功も財産も大した価値を持たない。
 ・自分の能力を精一杯使う熱意があり、かつ社会に役立つ活動を持つ人は、幸福である。また、外界に対する興味・関心が強く、それらに敵対的ではなく友誼的な態度を取る人ほど、多くの経験や知識を得ることで幸せを感じられる。
 ・幸福は愛情からもたらされる。
 ・仕事も幸福を語る上では重要である。
 ・仕事と直接関係のない趣味を持つことも大切だ。

これらに共通していることは、財産や名誉、地位は幸福の一つの要素だが、最終的には人を幸せにはしてくれない。人の役に立つ仕事や社会への貢献が幸せに繋がり、幸福は自分で作るものである。そして、愛情、笑いは幸せとの親和性が高く、逆に競争は人の心に不幸を産み出す源泉であるということでしょうか。

幸福論の思想は、アドラー心理学における「他者貢献」、「対自競争」の理論に通じるものがあります。

人間の幸福感は他者や社会へ貢献し、それらとの一体感を感じることで得られるというのが「他者貢献」です。

また、成功をおさめたい、もっと儲けたいという意欲が人との競争心やライバル心を生み、人を成長させます。アドラーはそれを「対他競争」といって認めていますが、過去の自分との競争も重視します。

これを「対自競争」といい、人と比較せず、過去の自分よりよくなろうとする考え方です。競争から降りた定年後は「対自競争」の思考が今以上に大切になりますね。

2.「幸せのカギはお金」の間違い

前野教授は著書で、1960年から2010年に至るまでの生活満足度と一人当たりの実質GDPの推移を比較したデータを示しています。一人当たりのGDPはまさに右肩上がり。2010年には50年前の5倍以上になり、日本の経済が豊かになったことがよく表れています。

ところが、生活満足度をみると、50年前とほとんど変わらず変化がありません。国のGDPが増え生活が豊かになっても、人々の幸せにはあまり影響がなかったと述べています。

つまり、幸福感は、高度経済成長期であろうがオイルショックのときであろうが、バブル景気の時代やリーマンショックの時代であろうが、あまり変わらないということになります。

お金との直接的な関係でいえば、カネ・モノ・地位など他人と比較できる「地位財」では、幸せは長続きしないことがわかっています。宝くじが当たった人は不幸だという研究すらあります。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの研究によれば、幸福度は年収7万5000ドルまでは比例して上昇し、それ以降はいくら年収が上がっても幸福度は上がらないことが明らかになりました。日本円で約800万円。国によって金額は異なりますので、ブータンの平均年収は20万円ぐらいですが、それ以上あっても幸福度は上がらなくなるそうです。

年収が少ない人や発展途上国の人は、収入が増えると幸せになりますが、ある程度以上豊かになると、地位財では幸せにならなくなるということです。先の3大幸福論を立証する結果になりました。地位財による幸せは長続きしません。

お金でなければ何によって幸せになるのでしょうか。幸福感には他人と比較できない「非地位財」が重要です。つまり、確たるものではなく、相対的に感じるものです。具体的には、健康、愛情、満足感などです。これが長続きする幸せにつながります。定年後の世代にピッタリの理論ですね。

3.幸せになるための4つの心的因子

では、幸せになるための心的要因は何か?1500人以上の人たちに実施したアンケート調査を分析した結果、4つの因子があると前野教授は突き止めました。

幸せになるための4つの心的要因
 ・「やってみよう因子」⇒自己実現と成長の因子
 ・「ありがとう因子」 ⇒つながりと感謝の因子
 ・「なんとかなる因子」⇒前向きさと楽観性の因子
 ・「ありのまま因子」 ⇒独立と自分らしさの因子

はじめの「やってみよう因子」は自己実現と成長の因子です。自己実現を目指している人。自分自身、成長しようと頑張っている人。そして、強みを持っている人。これらの人は、幸福度が高い傾向にあります。

次の「ありがとう因子」はつながりと感謝の因子です。自分が喜んでいるときよりも、自分が何かをしてあげたことによって誰かが喜んでくれたとき、他人の喜ぶ顔を見たとき。ほんわかとした幸せを感じます。

次の「なんとかなる因子」は前向きさと楽観性の因子です。楽観的でポジティブな人。細かいことを気にしない人。失敗を恐れずにチャレンジしようとする人。目いっぱいの集中と充実感を感じる前向きな境地です。

最後の「ありのまま因子」は独立と自分らしさの因子です。人の目ばかりを気にするのではなく、自分らしく生きている人。誰かと自分を比べ過ぎず、自分の軸をもっていて、それに従って行動できる人。周りと協調しながらも、自分自身の人生を歩んでいる人。自分の人生の主人公は自分だとの思いをいつも持っている思考です。

これら4つの因子は幸せの条件です。これらを高めることができれば、わたしたちは幸せになれるといいます。

4.まとめ

今回は、「3大幸福論」から「幸せ」「幸福」とは何かにはじまり、幸せとは自分の心の持ちようだということ。

「お金」だけでは幸せは長続きしないこと、健康、愛情、満足感など他人と比較できないものが長続きする幸せにつながること。

幸せになる心の条件は4つあること。「やってみよう」、「ありがとう」、「なんとかなる」、「ありのまま」が大切だと分かってきたというお話しでした。

次回も「幸せ」について、もう少し掘り下げていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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