定年後の準備ではじめにやるマインドセットの転換とは?
1.出世レースから降りるときが来た
「マインドセット」とは、辞書をみると、「自身の習性として根付いたものの見方や考え方で、先入観・信念・判断基準・無意識の思い込み等々の思考の傾向を指す」とあります。
サラリーパーソンは多かれ少なかれ似たようなマインドセットを持っているように思われます。その代表的なものが、「出世」に関する自分への期待,他者への関心ではないでしょうか。これで、自分をすり減らしてしまう人もいます。
サラリーパーソンは「出世」、その反対の「左遷」「降格」など生殺与奪の権は上司や会社に握られています。上司の機嫌を伺うのは身を守るためにほかなりません。
入社以来、課長、部長という出世レースに残り、もし役員にでもなればサラリーパーソンとしてはほぼ勝者ということができますね。出世レースに勝負がつくのは50歳前後ですね。
役員になった同期の話しを聴きつつ、心の中では「同期のあいつより俺の方がずっと仕事ができたのに…」,「あいつは上司に恵まれただけ、それに引き換え俺の上司ときたら…」と叫んでいる。
でも、そんなことを思っても仕方ありません。もう勝負はついてしまっているのです。50代になっていつまでもウジウジと恨み辛みを言い続けて、定年を迎えてしまうのは大きな損失です。
出世するかしないかには、単に能力ばかりではなく運もあります。運も実力のうちです。しかし、出世しないからといって「人生の敗者」とはいえません。会社だけが人生ではないのですから。ましてや、定年後の人生は長いのです。
コヴィーの『7つの習慣』の第2の習慣を思い出すと,「終わりを思い描くことから始める」です。自分の葬儀の場面で、最後に「幸せ」を手に入れればいいのです。ゲームオーバーのときがやがて来ると想像しやすいのも50代。社会的な成功や失敗にどれほどの意味があるのかと思えてきて,人を羨ましいと思う気持ちを捨てるきっかけになります。
早く、出世レースや社内のギュウギュウ詰めの「競争」や「満員列車」から降りて、気持ちを切り替え、次の人生に向かって準備する方がはるかに幸せです。
2.人事評価制度の見直しに期待してももう遅い
日経BPコンサルティングの「人事評価制度に関する意識調査」(2018年)では、勤務先の人事評価制度について満足度を調査しました。その結果、「満足」と答えた人が37.7%だったのに対し、「不満」と答えた人は62.3%と「満足」を大きく上回ることになりました。
また、不満に感じる理由(複数回答)には、次のような回答がみられました。
質問:「人事評価制度に不満を感じる理由を教えてください(複数回答)」
1位:評価基準が不明確(62.8%)
2位:評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出て不公平だと感じる(45.2%)
3位:評価結果のフィードバック、説明は不十分、もしくはそれらの仕組みがない(28.1%)
4位:自己評価よりも低く評価され、その理由がわからない(22.9%)
5位:評価結果が昇進、昇格に結びつく制度ではない(21.4%)
この調査結果から見えてくるのは、上司の顔色をうかがいながらその人なりに頑張ったとしても、必ずしも評価されず、出世などに結びついていないという実態です。これでは真面目な人は虚しさに囚われたり、自己肯定感まで失ってしまうことになりかねませんね。
また、7割を超える大多数の人が人事評価制度を見直すべきとも答えています。これは今始まったことではなく、随分昔からいわれてきましたが、残念ながら見直しに期待していたら定年を迎えてしまいます。
定年が見えてきている50代は、もはや人事評価制度に期待してはいけません。自分でマインドセットを換えて、この消耗戦から早く降りることです。そして、新しい自分だけの「生き方」を作りだす側に能力と気力体力を向けていくのです。
3.「対他競争」から「対自競争」へ
経済コラムニストの大江英樹氏は著書『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)のなかで、「早く成仏した方が幸せになれる」と述べています。「成仏」とは、言い得て妙ですね。その意味は以下のようです。
・“成仏する”とはどういう意味なのか?…ひと言で言うと、“成仏”とは、いつまでも会社人生にこだわらないで新しい人生に向かう、ということ。
・人生の目的は会社で出世することではなく、「幸せになること」ですから、いつまでも会社での地位や立場に固執するのではなく、そういうものは早く捨て去るべきです。
・私も50歳で成仏しました。
同じ意味で、わたしは55歳で成仏しました(笑)。もう少し早くするべきだったと思います。出世した同僚、友人・知人をうらやむ気持ち,妬む感情が静まるようになりました。「人それぞれ、幸せならいいではないか」と思えるようになると、肩の重荷が降りたような良い気分になりました。
精神科医・心理学者のアルフレッド・アドラーが提唱したアドラー心理学において,成功を求めて人と競争するのが「対他競争」。幸福を求めて前の自分より進化していくのが「対自競争」です。成功を求める意欲が人との競争心やライバル心を生み,人を成長させることは否定するものではありません。アドラーはこれを認める一方で,過去との自分との競争も重視しています。
これは,過去の自分よりよくなろうとする向上心につながります。会社生活も終盤に入ったら,他者との比較や競争から降りて,自分自身の成長を求めるマインドセットに転換したいものですね。
いつまでも会社での仕事や地位にこだわるのではなく,新しい「生き方」に向けて一歩を踏み出す覚悟をしたいものです。
「降りた」という感覚は,確実に気持ちを楽にしてくれます。向上心は残しておいて構いませんが,無駄な競争心から解き放たれたときに,心から楽になれると思います。
定年から自分の好きなことができる時期がスタートする,まさに「人生のリスタート」だと考えてはどうでしょうか。60歳,もしくは65歳で会社を辞めたあともまだ20年~25年ぐらいは人生は続くのですから,新たに仕事で頑張るのも良し,趣味を中心に思い切り楽しむも良し,楽しく過ごすことができますよ。
過去に生きるのではなく,未来に生きることが何よりも大切です。
いつまでも退職後はほぼ役に立たない「元〇〇会社の▲▲部長の□□です。」と,前の会社の肩書を使うのではなく,今の等身大の自分で堂々と生きていきたいものですね。
4.まとめ
今回は定年後の準備として出来れば最もはじめに取り組むべきこと、サラリーパーソンとしてのマインドセットの問題をとりあげました。
50代は早く、出世レースや社内のギュウギュウ詰めの「競争」や「満員列車」から降りて、気持ちを切り替え、次の人生に向かって準備することが重要です。
また,50代は、もはや人事評価制度に期待してはいけません。消耗戦から早く降りることです。そして、新しい自分だけの「生き方」を作りだす側に能力と気力体力を向けていくことが大切です。
即ち,50代のサラリーパーソンは「早く成仏した方が幸せになれる」ということですね。
会社生活も終盤に入ったら,他者との比較や競争から降りて,自分自身の成長を求めるアドラーの「対自競争」のマインドセットに転換したいものですね。