定年後の「起業」の事情はどうなっているの?

1.50代60代の起業家の割合が急増中

定年後に「再雇用」で今の会社もしくはその子会社で継続雇用される,また,別な会社に「再就職」「転職」して働くやり方は,“雇われる働き方”です。

一方,「事業を始める」「会社を作る」「個人事業主」「フリーランス」は広い意味で「起業」です。これらは“雇われない働き方”ということができます。
経済産業省の「中小企業白書(2017年版)」をみると,今から42年前わたしが働き出した1979年には,男性の場合で,39歳以下での起業が6割近くを占めていましたが,2012年には3割になっています。これに対して,50代・60代は,1979年の約24%から2012年に約52%へと2倍以上に増えています。女性の場合は,同じく15%だったのが,35%とこちらも2倍以上に増えています。

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60歳以上の起業家の割合は,2012年では女性20.3%に対し,男性が35.0%と,女性に比べ男性の方が高くなっています。これは,男性の場合,会社員を定年退職した後に,セカンドキャリアとして起業を選択している人が多いためと白書は推察しています。

起業家数についてみると,2002年38.3万人に対し,2012年30.6万人と徐々にではあるが減少しています。2012年の60代の起業家数を算出すると男女合計で約94千人。60代前半の就業者数が男女合せて約524万人ですから(2016年),起業家の割合は約2%,「50人に1人が起業家」といえることになります。

定年後の起業家が増えている理由は,会社員生活の終着駅である定年が見えてくると,自分の人生を振り返り,「このままで人生を終えたくない」「もっと自分の可能性を活かせる仕事をしたい」「社会の役に立ちたい」という想いが強くなる年代ですね(自分は正にそうでした((笑)))。

これが起業の動機の底流になっていると思われます。また,実際問題として再雇用や再就職という手段では,給料は半分に減ることも珍しくありません。再就職では,求人はマンションの管理人や警備員の仕事がほとんど。

freee株式会社さんが2019年に行った「起業」に関するアンケート調査の結果を公表しています。この中で,50~69歳の層に「シニア起業」の傾向をまとめています。

「起業への関心度」について,50歳以上の層で28.7%が「起業に関心がある」と回答

次に,関心がある人に具体的にいつぐらいに実現したいか尋ねたところ,「3年以内」と答えた人が最も多い結果となった。年代別でみても最も高い数字であり,若年層よりも,より具体的なイメージを持っていることがわかります。

同じく起業関心層に対して起業の理由を聞いたところ(複数回答),50歳以上の層では,「自由に仕事をしたかった」(43.7%),「収入を増やしたかった」(28.7%)に続いて,「退職後年金以外の収入も得たいから」(23.7%),「趣味・特技を生かしかった」(23.0%),「年齢や性別に関係なく仕事がしたかった」(21.7%),が上位にランクされた。定年後のセカンドライフの充実において「起業」が一つの選択肢に明確に位置づけられているといえます。

2.定年後の起業のメリット

定年後の起業のメリットについてみてみます。
ひとつは、やりたいことを仕事にできることです。やりがいを感じられることや社会的に貢献できることに取り組むことで、高いモチベーションで仕事に取り組むことができます。

次には、知見や経験をいかせることです。会社員時代に培った知識や経験を活かして働くことができます。

次は、定年がないことです。起業したなら、年齢に捉われることなく仕事に打ち込むことができます。自分のペースで仕事に取り組むことができるのも大きなメリットです。

最後に、活用できる助成金や補助金が多いことです。資金調達の悩みが大きいことが上げられていましたが、シニア起業向けの助成金や補助金が増えてきています。国関係では日本政策金融公庫や厚生労働省、中小企業庁などが提供していますし、地方自治体でも独自の支援策をおこなっていますので、興味のある方は、まずはネットでリサーチしてみてください。

3.定年後の起業に踏み出せない理由は

ほとんどの人にとって起業は初めての経験であり、「起業しても生活していけるだろうか」「失敗したらどうしよう」「この仕事で起業するのが自分に合っているのか」「何から手をつけたらいいのか」など不安も大きく、かつ尽きないと思います。

また、起業しても10年後まで生き残れる確率は、やや古い資料で「中小企業白書(2005年版)」によると、起業後の生存率が次のように出ています。

「中小企業白書(2005年版)」による起業後の生存率
・1年後:72%(廃業率は28%)
・3年後:50%(廃業率は50%)
・5年後:40%(廃業率は40%)
・10年後:26%(廃業率は74%)

さきほどと同じFreee株式会社の調査では、「起業に対して不安に感じていることで、起業に踏み切れない(なかった)要因」について聞いています(複数回答)。その結果は次ぎのとおりでした。

50代以上の「起業に対して不安に感じていることで、起業に踏み切れない(なかった)要因」
・1位が「自己資金の不足」(50.3%)、
・2位に「資金の調達の難しさ」(38.7%)、
・3位に「収入減など失敗した時のリスクが大きい」(34.3%)、
・4位に「事業運営に関する知識・ノウハウがない」(30.0%)
・5位に「起業の方法がわからない」(26.3%)

資金面に対する不安から起業できない意見が目立ちます。また,50代以上は、他の年代に比べて社会人としての経験はありますが、実際の起業の方法事業自体を運営する実務面ではまだまだ不安を抱えており、起業に踏み出せない実態が浮き彫りになりました。

4.定年後の起業に人気の職種

冒頭に触れた「中小企業白書(2017年版)」で、起業家の男女別の業種構成が載っています。2012年をみると、男性は「その他のサービス業」(38.8%)、一次産業(13.2%)、「建設業」(12.7%)が上位3トップ。女性は「その他のサービス業」(52.5%)と断トツで、以下「小売業」(16.7%)、「飲食サービス業」(8.0%)と続いています。
・もう一度、Freee株式会社の調査をみてみます。起業に関心のある層に「起業したいと思っている(思った)業種」について聞いており(複数回答)、50代以上をみると、次のとおりです。

50代以上の「起業したいと思っている(思った)業種」
・1位:コンサルタント業(13.7%)、小売業(13.7%)
・3位:飲食業(13.3%)
・4位:教育・学習支援(10.0%)
・5位:生活関連サービス・娯楽業(9.7%)
・6位:学術研究、専門・技術サービス業(9.3%)

他の年代と比較して、「コンサルタント業」、「教育・学習支援」および「学術研究、専門・技術サービス業」が高い回答となっています。これまでの経験や技能を活かして、アドバイザー契約をするようなケースや大きな元手をかけず、スタートするケースが多いと考えられます。

5.まとめ

今回は、50代60代の「起業」について,増えている背景,定年後に起業するメリット,一方で関心は高いが踏み出せない人も多いのが起業です。そのあたりの事情や定年後に人気の職種について探ってみました。