亡くなった父から土地と家を相続したけど、相続登記をしなくても問題ないですか?

・国税庁の資料によれば、相続税申告をした人の、平成28年度、平成29年度、平成30年度の相続財産の構成比は、以下表のようになっています。

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・相続した財産のうち、現金貯金は35%前後、不動産が占める割合は30%から40%であることがわかります。

・被相続人の死亡によって相続財産となった土地は、そのままにしておくと、亡くなった方の名義になったままです。

・今回は、不動産を遺産相続したときの名義変更(いわゆる「相続登記)」について、みていきます。

・また、令和3年の法律改正により、相続登記が義務化されるという大きな変化が起こりました。この点についても簡単に触れてみたいと思います。

・50代、60代そして定年後に、高齢の親御さんに万が一があったとき、慌てないために覚えていきましょう。

目次

  1. 1.不動産の名義変更の方法
  2. 2.登録免許税に注意!
  3. 3.相続登記の義務化とは?
  4. 4.所有者不明土地の解消に向けた不動産に関する4つのルール
  5. 5.相続土地国庫帰属制度?(令和5年4月27日施行)

1.不動産の名義変更の方法

・土地を相続することになった相続人が、法務局で必要書類を提出し、土地の名義変更(相続登記)を行います。

・相続に関する手続きには、被相続人と相続する人の関係性を証明するために戸籍謄本などが必要となります。

・この戸籍謄本類は、場合によっては分厚い束になることも多く、これを軽減するためには「法定相続情報証明制度」を利用します。

・一旦、戸籍などを集める必要がありますが、これを法務局で手続きすると「法定相続情報一覧図の写し」を交付してもらえます。

・これがあれば、法務局以外での相続手続きにも使用できますので便利です。

《法定相続情報一覧図を作る前提で必要書類を説明します》
(1) 法定相続情報一覧図
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本及び除籍謄本
・被相続人の住民票の除票(ない場合は戸籍の附票)
・相続人全員の現在の戸籍謄本または抄本
・申出人(相続人代表者等)の本人確認書類(運転免許証のコピーなど)
・委任状(法定相続情報一覧図を司法書士などが代理申請する場合)
(2) 遺産分割協議書
相続人全員の署名捺印が必要

(3) 相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書に捺印された実印のもの

(4) 不動産を取得する相続人の住民票
住所特定のために必要

(5) 相続する不動産の登記簿謄本
名義変更を行う不動産のもの

(6) 相続する不動産の固定資産評価証明書
登録免許税を計算するために必要
不動産のある住所地を管轄する市区町村役場で入手

(7) 委任状
司法書士に相続登記の手続きを依頼する場合は必要

・不動産登記は本人申請が原則という専門家もおり、最近は、自分で行う人(=本人申請)が増えています。ネットや書籍など手軽に、詳細な手順や書類作成の方法がわかるようになってきたことによると思います。

・不動産の名義変更(相続登記)は、自分で行うことができます。

・私の友人(60歳の女性)も、司法書士に依頼しないで、自分で手続きしちゃいました。

2.登録免許税に注意!

・しかし、自分で行った場合でも各種書類や登記に費用がかかります。

・特に、高額になる可能性のある「登録免許税」には、注意が必要です。

・土地の遺産相続にかかる税金は、登記の際の「登録免許税」と、相続税が課税される場合の「相続税」の2種類です。相続によって名義変更するときには、登録免許税が掛かります。

・金額は固定資産評価額によって変わるのがやっかいです。計算の仕方は、登録免許税=固定資産評価額×0.4%。固定資産評価額は、固定資産評価証明書に記載されています。

・たとえば、4000万円の評価額の土地に関する登録免許税は、16万円となります。

・これを登記申請の際に、前払いで支払っておく必要がありますので、事前に試算して準備しておきます。

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3.相続登記の義務化とは?

・相続税の申告には、被相続人の死亡日(相続開始があった日)の翌日から10か月以内に行う必要があります。また、相続放棄は3か月以内に行わなければなりません。

・しかし、相続登記をするか否かは個人の自由で罰則等もありませんでした。

・法務局から「名義変更してください」というような連絡がくることもありません。

・被相続人がかなり以前に購入していた山林や原野などの土地を、相続人たちが知らなかった場合は、自分たちで調査しない限り分からないということもあり得ます。

・このような相続登記がされないことによって、「所有者不明土地」が増えています。

・全国のうち所有者不明土地が占める割合は、九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。

・そこから、土地の所有者の探索に多大な時間と費用が必要となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引や土地の利活用の阻害要因となったり、土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、様々な問題が生じています。

・このような問題への対策として、令和3年に法律が成立し、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されることになりました。

・以下に、少し詳しくみていきます。

4.所有者不明土地の解消に向けた不動産に関する4つのルール


①相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)

・自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈により所有権を取得した者の同様とする。
以上のような条文が新たに創設されます。

・相続により不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記をしなければいけなくなりました。
・その他遺言がある場合、自身が受遺者である旨を知った日から3年(相続開始を知った日も含む)以内に同じように相続登記の申請が必要になります(相続人に限る)。
・なお、正当な理由もなく相続登記を怠った場合は、過料になります。
・また、義務化前に放置されている相続登記にもこの制度は適用されるので、今まで放置を続けてきた人達にも影響を及ぼす内容であることは間違いありません。

②相続人申告登記の創設(令和6年4月1日施行)

・(~省略~)所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。

・現在の相続登記の制度だと、被相続人の出生から死亡までの戸籍除籍謄本、相続人の戸籍謄本、住民票除票、相続の住民票、印鑑証明書、遺産分割協議書等、たくさんの書類が相続登記の申請には必要となります。
・そのため相続人からすると相続登記を申請するハードルが高く後回しにされ放置される原因となっていました。

・そこで、新たに相続人であることの申告制度を設け、簡易的な手続きで不動産所有者の相続人であることを法務局に申告できるようになりました。
・当該申告を行うことにより、相続登記申請義務を果たしたこととなり、3年の相続登記申請期限がなくなります。ただ、その後に遺産分割協議が行われて、合意に至った場合は、合意から3年以内に申請が必要となります。

・この申告制度により、とりあえず現在の不動産の所有者(相続人)が誰であるかが確認できるようになります。

③住所(氏名)変更登記の義務化(令和8年4月までに施行)

・直接相続人に関係することではありませんが、不動産の所有者(登記名義人は、住所の変更、氏名の変更があった際には、その変更から2年以内に変更の登記を申請しなければいけなくなりました。

・現在の登記制度では、住所変更、氏名変更の登記では義務ではありません。そのため、現在の所有者の住所氏名と、登記されている住所氏名が一致していない状態の登記が多く存在しています。
・このままの状態で放置してしまうと、将来相続が発生すると更に現実の状況と登記が一致しなくなることになるため、住所氏名に変更があった際には、所有者に早い段階で登記を行うよう、今後は変わってきます。
・登記義務に違反した場合は過料となります。

④登記官による住所(氏名)変更の職権変更登記(令和8年4月までに施行)

・対策③に加え、登記名義人の住所氏名に変更があった場合は、登記官が職権で住所氏名の変更登記を行えるようになります。

・ただし、登記名義人が法人ではなく、自然人である場合は申出がない限り職権での変更登記は行えません。 

5.相続土地国庫帰属制度?(令和5年4月27日施行)

・不動産の相続登記が放置される原因の1つとして、利用目的がなくて相続したくない土地を相続人があえて登記をしないケースです。

・相続財産の中に相続したくない財産がある場合、相続したくない財産のみを相続放棄することはできません。つまり、相続する選択をした場合には、いらない土地も含めて相続するしかありません。

・相続財産の中に価値のない不動産があると、相続登記が行われず放置されることがしばしばあります。

・相続登記をすると、登記上は所有者である情報が記載されてしまうため、固定資産税の請求や、管理費等の請求、実際の管理の請求に関する書類が登記名義人の住所に送られてきてしまうため、それを回避するために登記が放置されます。


・または、相続人全員が相続を希望しないために遺産分割協議がまとまらないまま、放置されていることもあります。

・この対策として、不要となった土地を国庫へ帰属させる制度が新設されました。

国庫へ帰属させる条件》
①相続又は遺贈で土地を取得したこと
②管理、処分に多くの費用、労力が発生しない土地であること
③10年分の管理費用を負担すること

・なお、建物がある土地、抵当権等が設定してある土地については、国庫へ帰属はできませんので注意が必要です。