定年後再雇用で給与はどうなるの
1.「定年後再雇用制度」とは?(おさらい)
まずは,「定年後再雇用制度」についておさらいしておきます。
「定年後再雇用制度」とは,60歳定年で一度退職扱いになった後,再度雇用をすることで雇用を継続する制度です。
(定年延長とは,定年後も退職せずに雇用形態を維持したまま雇用を延長するという点で異なります。)
こちらの記事を参考にしてください。
この制度は,厚生年金の支給開始年の65歳への引き上げの影響を受け,60歳定年退職から64歳までの期間に,年金の支給がない高齢者を出さないことを目的としています。
給与の額については,新しい雇用形態で労働契約を結ぶため(「シニア社員」,「キャリア社員」,「嘱託」,「契約社員」など),賃金については最低賃金などのルールを守ったうえで,従業員との間で決めることができます。
その際に,会社には定年前と同じ条件で再雇用する義務はありません。定年前と同じ業務内容であっても,体力の低下などにより仕事の効率も低下するため,賃金が大きく下がります。
次からその実態を見ていきましょう。
2.4割~6割減という調査もあり厳しい現実が待っている!
「日経ビジネス」が2021年1月に40~74歳を対象に定年後の就労に関する意識調査を実施し,回答結果を公表しました。
そのなかで,「再雇用者」(子会社やグループ会社勤務を含む)の勤務時間や日数については63.5%が,業務量については47.9%が「定年前と同水準」だと答えています。「定年前より増えた」という回答も合わせるといずれも半数を超えています。
一方で,年収については「定年前の6割程度」が20.2%で最多で,「5割程度」が19.6%,「4割程度」が13.6%となっています。相場観は4割~6割減少という格好です。
また,定年後に実際に働いてみて感じる不安や悩みについて,最も多かったのが,「給料や待遇が下がること」で46.7%が不安や悩みを感じているという結果でした。
別な調査を見てみる。パーソル総合研究所というところが行った再雇用者への調査資料では,定年前より年収額は全体平均で44.3%下がっています。さらに50%程度下がった人は22.5%,50%より下がった人は27.6%と,再雇用者のうち約5割は年収額が半分以下になっていることが分かりました。
次に,独立行政法人労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(2020年3月31日)資料をみると,再雇用や定年延長により勤務をした60~69歳の男女(2284千人)のうち,85%もの人が賃金が減少しています。そして減少率は21~60%が中心であることがわかります。
賃金の減少率と人数の割合
1%~10%:1.1%
11%~20%:6.0%
21%~30%:12.4%
31%~40%:17.4%
41%~50%:23.6%
51%~60%:11.9%
61%~70%:6.0%
71%~ :1.6%
無回答 :5.3%
計 :85.3%
共通して言えることは,同じ企業の,同じ事務所にいて,同じ仕事をしてきても再雇用に移ったとたんに賃金の減少幅は少ない企業でも2割ダウン,大きければ6割ダウン(収入ダウンの崖どころか断崖絶壁!)になっているということです。
年収の平均はどうかといえば,同じ調査では全体の平均で374.7万円,業種別では金融・保険業の平均が506.8万円,サービス業の平均が325.1万円などです。
以前「定年前後の3度の収入ダウン」の回でもふれたように,勤務先の企業の就業・賃金規程をしっかり調べておくことを強くお勧めします。
こちらの記事で確認してください
3.一定の条件の場合に国からの給付金がもらえる
定年前と同じ水準の給与,賃金を確保することはとても難しいことが見えてきたとおもいます。
このときに知っておくべき制度が,雇用保険から出る高年齢雇用に関係する給付金です。定年まで働いていた企業で再雇用で働いたり,定年後に新しい企業に再就職する場合に受け取ることができます。以下にその内容をみていきます。
4.高年齢雇用継続基本給付金
継続雇用されていることが前提の給付金で,60歳を過ぎて同じ会社に再雇用として働いていて,給与が減ってしまった人が対象になっています。
条件は以下の3点です。
高年齢雇用継続基本給付金の受給条件は次の3つすべてを満たしていること
①5年以上雇用保険に加入していた実績があること
②現在も雇用保険に加入していること
③今までの収入の75%未満までの賃金水準が対象
自分にも再雇用者(勤務先の会社では「シニア社員」という嘱託扱いです)になった翌月に,労務部門を通じて「公共職業安定所」(通称:ハローワーク)発行の「高年齢雇用継続給付受給資格確認通知書(被保険者通知用)」という小さな横長の書類が届きました。
この制度を簡単にいうと,賃金が75%未満に低下した場合に,75%を上限にその差額を給付金として受け取れる制度です。61%以下になっていれば,満額の15%が支給されます。
例えば,賃金が月額40万円だった人が再雇用後に月額28万円に低下した場合,13,076円が給付金となります。この場合の支給上限額は36,600円です。40万円の50%,つまり月額20万円に低下していても,36,600円が限度ですので注意が必要です。
60歳~65歳まで継続雇用されている期間に支給されます。会社が手続きをしてくれます,入金は本人の指定口座に直接,振り込まれたり,賃金の下がり方で受け取れる金額が変わってきます。
5.高年齢再就職給付金
これは転職や再就職の場合に適用されるものです。60歳~65歳未満で再就職し,条件を満たした場合に受け取れます。
賃金が以前よりも75%未満になった場合に,受給できる可能性があります。
条件は以下のとおりです。
高年齢再就職給付金の受給条件は以下の全てを満たしていること
①60歳~65歳未満で再就職した一般被保険者(雇用保険の被保険者)
②60歳になるまで通算5年以上雇用保険の一般被保険者である
③再就職前に受給していた雇用保険の基本手当期間内に再就職
④再就職日までの基本手当支給残日数が100日以上ある
⑤再就職の時に再就職手当を受給していない
6.まとめ
今回は,「再雇用」後の給与レベルに絞って深掘りしてみました。
定年前に比べて,2割~6割収入がダウンしていました。
是非,あなたの勤務先の再雇用の就業・賃金規程を確認することをお勧めします。なかには,賃金以外の各種手当やボーナスも変わっていることがありますので注意しましょう。
収入ダウンを補う給付金制度がありますので,ある程度カバーできることが分かりました。しかしながら,定年前の賃金満額までの回復は困難です。
給与レベルを踏まえて,ほかの「再雇用」の良い面,悪い面を考え合せ,あなたの人生哲学にもとづいた定年後の「働き方」-転職,起業,NPOやボランティア,シルバー人材センター登録,アルバイト,フリーランスetc,-を洞察してみましょう!「自己決定感」を大切にしましょうね!